「大胆な経済対策」の中身は、間違いだらけだ 「補正」が常態化、「成長戦略」は非効率に

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経済対策が策定されると決まって出てくる批判は、対策の中身が従来型の公共事業に偏っていて、中長期的に成長が期待できる分野への投資が少ないといったものだ。これは一見すると正論だが、筆者の考えはむしろ逆だ。

緊急性が高い補正予算による経済対策ではむしろ短期的な効果が高い支出に重点を置くべきで、中長期的な経済成長に寄与するような支出は本予算に盛り込むのが筋だ。今回の経済対策でいえば、子育て・介護の環境整備、同一労働同一賃金、長時間労働の是正などの働き方改革の推進は、補正予算で対応するのではなく長期的に腰をすえて取り組むべき課題だろう。

成長戦略を担うのは政府でなく民間であるべき

そもそも、政府が本当に成長分野を正確に予測できるのかという疑問もある。将来の成長産業が予測できないのは民間も同じかもしれない。ただ、厄介なのは、民間であれば失敗すると会社が倒産するなどして淘汰されるが、政府は倒産しないので非効率な投資が続けられてしまうことだ。このことが日本経済全体の成長力低下につながる恐れがある。

政府の成長戦略が不十分であることが経済の停滞が長期化している理由として挙げられることが多いが、筆者にはむしろ成長戦略が多すぎると感じられる。このことを如実に示しているのが「成長戦略」のページ数だ。

政府の経済運営の基本方針は小泉政権下では「骨太方針」、2009年民主党政権下では「成長戦略」で示され、現在の安倍政権では「骨太方針」、「成長戦略」の両方が毎年策定されている。このうち、「成長戦略」のページ数(A4判)はここ数年急増しており、2016年度版ではついに本文だけで200ページを超えた。これだけ量が多いと成長戦略の内容を理解するだけでも至難の業だろう。

経済成長の主役はあくまでも民間で、政府は民間にはできない税制や社会保障制度の改革、規制緩和の推進などを通じて民間が成長するための基盤整備にもっと注力すべきだ。経済対策、成長戦略を毎年策定しているようでは、民間需要中心の経済成長の実現は難しいのではないか。

斎藤 太郎 ニッセイ基礎研究所 経済調査部長

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さいとう たろう / Taro Saito

1992年京都大学教育学部卒、日本生命保険相互会社入社、96年からニッセイ基礎研究所、2019年より現職、専門は日本経済予測。日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」では2020年を含め過去8回、予測的中率の高い優秀フォーキャスターに選ばれている。また、特に労働市場の分析には力を入れており、定評がある。

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