ヘリコプターマネーは、どう考えても危ない 高インフレが発生して制御できない

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デフレ脱却に成功して金利が上昇する際には、預貯金金利の上昇で資金の調達コストが上昇する一方で、資金の運用利回りの上昇速度が遅く、金融機関の収益は圧迫されている可能性が高い。準備預金制度に基づく所要準備には金利が付かないので、準備率を引き上げることは銀行からより多くの手数料を徴収するようなものだ。このため経営の悪化を招くなど金融システムを不安定化させてしまう恐れが大きい。現実には大幅な準備率の引き上げは難しいだろう。無理に準備率を引き上げれば、金融システムの安定化のために多額の税金を投入する必要性が発生するかもしれない。

ヘリコプターマネー政策を貫いて発行した国債を償還せずに日銀が国債を永久に保有し続ければ、かなりの高インフレを許容することになってしまう。一方、日銀がインフレを抑制しようとすれば保有している国債を売却せざるを得ず、結局、この分の国債は政府が元本を返済しなくて済むヘリコプターマネーではなくなってしまう。

ヘリコプターマネーによって、誰も費用を負担することなしに政府が資金を手にすることができるといううまい話はないはずなのだ。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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