駅のキャリーバッグ衝突事故は被害者も悪い 被害者の過失割合は「30~35%」の可能性

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本件キャリーバッグ事故の舞台となった駅構内は、高速道路の進入路以上に複雑である。

駅構内などでの人の動きは、対向してくる人、自分と同じ方向に行く人、自分を追い抜いてギリギリをすり抜けていく人、自分から見て右から左へ、あるいは左から右へ、目の前を急ぎ足で通り過ぎる人、多種多様である。歩行速度もみな同じではない。ぶつかればケガをする可能性もある。お互いが他者の動きに気を付けて、事故発生を回避すべき立場にある。

さらに、駅構内や車内で人とぶつかってケガをさせるのはキャリーバックだけではない。雨天の日には傘が凶器になることもある。リュックサックで人を殴打することもあるし、ハイヒールで他人の足を踏みつけてしまうこともある。大きな荷物や長物を持って歩くこともあるが、駅構内を移動するとき、時間ギリギリで周りを気にしている余裕のないことも多い。自分の身体そのものが他人への凶器になることもある。

鉄道会社には損害賠償請求できる?

もちろん、人にぶつかるなどして損害を与える可能性のあるキャリーバッグを持っている者は、それだけ事故発生回避の責任が大きくなることはいうまでもないから、特に注意が必要である。

しかし、だからといって、キャリーバッグだけを悪者にして済ませるのも相当ではない。お互い危険を予知しあい、危険を回避しあうべき立場にある。色々な人の動きがあることを前提にして、自分も被害を受けないよう、あるいは被害を拡大しないよう、危険を予知して回避すべきなのだから、危険なものを持っている者の責任を比較的重くする一方で、相応の落ち度は調整されるべきであろう。

その意味では、加害者B氏75%、被害者A氏25%とする過失割合は決して不当な判断ではないといえるであろう。

最後に一つ問題点が浮かんだ。このキャリーバッグ事故の被害者であるA氏は、鉄道事業者に対して損害賠償を請求できるであろうか。鉄道事業者は不特定多数の人が行き交う駅構内における利用客の安全を確保する義務がある以上、キャリーバッグによる事故が起きないように具体的に対策を取るべきであるのにこれを怠ったとして、A氏が鉄道事業者に対して損害賠償請求をしないとも限らない。

キャリーバッグ事故でケガを負った人から、鉄道事業者を訴えたいという相談があったとき、どういう答えをするべきか。次の機会に考えてみたい。

小島 好己 翠光法律事務所弁護士

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こじま よしき / Yoshiki Kojima

1971年生まれ。1994年早稲田大学法学部卒業。2000年東京弁護士会登録。幼少のころから現在まで鉄道と広島カープに熱狂する毎日を送る。現在、弁護士の本業の傍ら、一般社団法人交通環境整備ネットワーク監事のほか、弁護士、検事、裁判官等で構成する法曹レールファンクラブの企画担当車掌を務める。

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