江戸崎かぼちゃの熱意に迫る JA稲敷(茨城県)
(2016年7月22日掲出)
着果後、55日以上かけて完熟させる
茨城県南部に位置する稲敷市江戸崎は、霞ヶ浦、利根川などの水辺に恵まれ、水運と農業を中心に発展した地域だ。そんな江戸崎の特産物が、「江戸崎かぼちゃ」。2015年12月、農林水産物や食品を国が地域ブランドとして保護する「地理的表示保護制度(GI)」に登録されたことから、ニュースにも取り上げられるなど、今さらなる注目が高まっている。今回、「江戸崎かぼちゃ」の秘密を探るべく、梅雨の江戸崎を訪れたのが、元日本テレビのアナウンサーで、現在はスピーチデザイナーとしても活躍している魚住りえさんだ。
江戸崎を初めて訪れたという魚住さん。一番の関心は、「江戸崎かぼちゃが通常のかぼちゃと一体何が違うのか」ということだった。そこで最初に向かったのが、JA稲敷の本店。魚住さんの疑問を、JA稲敷のトップである田丸治代表理事組合長は、丁寧にひもといてくれた。
「一番の特徴は完熟収穫にあるでしょう。江戸崎かぼちゃは、45日程度で収穫し貯蔵庫で追熟される通常のかぼちゃよりも10日ほど長く、着果後55日以上の完熟した状態で収穫しています。それがホクホクした食感と甘みを生んでいるのです」
果皮の緑色は濃く、質感はごつごつしており、果肉色は濃いオレンジ色。年間平均気温14.1℃、年間降水量1,350mmと安定した気候、適度な降水がある自然環境、排水性が高い火山灰層(関東ローム層)という、過湿に弱いかぼちゃの生産に適した土壌に加え、落ち葉などを数年寝かせる完熟堆肥や有機肥料、もともと地域で盛んに行われている畜産の堆肥などによる土づくりによって江戸崎かぼちゃが育まれているのである。
「江戸崎かぼちゃ」は今年で生まれて50年目を迎える。その歴史の中で培われた栽培方法と、圃場(畑)に対する厳格な検査体制を継承することで、完熟収穫を徹底。厳しい品質管理によって関東を中心に「江戸崎かぼちゃ」は、かぼちゃのブランド品として支持を受けてきた。その厳格なルールは「そこまでやるんですね」と魚住さんも驚くほどだ。
50年の積み重ねでブランドを磨く
江戸崎かぼちゃの物語は1966年に始まる。江戸崎町君賀地区(現稲敷市)を中心に生産者7名で栽培が開始。田丸氏が「50年前にかぼちゃの栽培を始めた当時、売るのに相当苦労したそうです」と語るように、課題を抱えてのスタートだったようだ。しかし、ブランド産地となるきっかけは思いかけずやってきた。ある生産者が通常の収穫時期を逃し、畑で完熟状態にあったかぼちゃを市場に出すことになった。すると、購入した消費者から「あのかぼちゃが欲しい」といった声が小売店、市場を介して伝わってきたという。
もともと、この地区には先進的な野菜づくりに挑戦し成功体験を重ねてきた生産者たちがいた。目指す境地は「良品に安値なし」。土づくり、栽培管理の徹底、そして販売促進活動を融合することで高い品質を維持し、市場や消費者からの評価を獲得する。そう信じる生産者の集団だったことが、偶然を1回きりに終わらせることなく、成功の方程式を確立する契機にすることができた、とも言えるだろう。生産者たちがお互いの圃場をチェックし合う中で、数年をかけて着果後55日以上という数字に収斂していく。苗づくり、土づくり、栽培管理にいたるまで統一したルールを定め、品質の維持を徹底。生産者への指導は、土壌診断による堆肥を投入するタイミングをはじめ、ビニールハウス内の最適な温度調節のための朝や夕方の開け閉めの時間にまでおよぶという。
「先輩たちの苦労と努力が、今の私たちを支えてくれているのです」と田丸氏。「現在でも、江戸崎かぼちゃの一つひとつについて熟度や重量、形状、傷などのチェックをしています。こうした全品検査体制を整えている産地はめずらしいのではないでしょうか」と続ける。
1982年には、茨城県で第1号となる「茨城県青果物銘柄産地」に指定。都内のスーパーなどで試食会を開催するなど、販売促進活動にも注力していく。時には、店頭で生産者自らが直接、消費者に試食を提供するといった光景も。また、青果市場で目立つように段ボールのデザインを変更したり、贈答用江戸崎かぼちゃ2個入りギフトのパッケージを開発したりと、これまで認知度、そしてブランド価値を向上する取り組みを継続的に実践してきた。