英国離脱議論であらわになったEUの「急所」 欧州の指導者たちも目をそらしていた

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実際は逆だ。「欧州プロジェクト」華やかなりし頃は、中央集権化の促進が必要だと考える先見者はほんのわずかだった。反直感的に見えるかもしれないが、欧州で生産性が低下し労働力も縮小の一途をたどっている現状は、もっと厳しい時代の前触れであるとともに、より効率的で民主的な対処ができるEUが必要だ、との論拠を強化するものでもあるのだ。

約40年にもわたって何度も壊れ、その場しのぎの補強を必要としてきた、今でもすぐに崩れそうな意思決定メカニズムを、どうやったら効率的かつきちんと機能する民主主義へと一変させられるのか?

重要なのは「前進する」という政治的な意思

これに関しては政治学者が、各国の議員が欧州議会の議員を兼任する二重委任の再導入や、上院創設による欧州議会の二院制導入などを提唱してきた。しかし、重要なのは、前進するという政治的な意思だ。

個別に主権を持つ欧州各国の政府のほとんどは、EUの合理化や民主化に長年反対を続けてきた。だが今では、極右と極左の両方にある欧州懐疑主義派の政党に出し抜かれるか、あるいは有権者を満足させるような超国家的な民主主義を作ることでその脅威に対応していくか、のどちらかを選ばねばならないのだ。

「欧州」批判の拡大を食い止めるためにEUは、ひと握りの政治家だけでなく、市民社会も取り込んだオープンな議論の場を設けるという、どんでん返しを必要としている。この変革は、欧州市民への責任をもっと果たさない限りEUが分解する流れは止まらない、ということを前提にしなければならない。

ジャイルス・メリット ジャーナリスト

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ジャイルス・メリット / Giles Merritt

非営利の欧州シンクタンク「フレンズ・オブ・ヨーロッパ」事務局長

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