習近平は「中華帝国」を構築しようとしている 「中華民族の偉大なる復興」とは?

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それでは21世紀のアジアは、本当に「パックス・チャイナ」の時代を迎えるのか。中国がこのまま順風満帆に台頭していくなら、かなり高い確率で、「パックス・チャイナ」の時代が到来するだろう。

特に、今年11月に共和党のトランプ候補が、次期アメリカ大統領に当選すれば、その時代に一歩近づく。トランプ候補が主張するように、アメリカ軍がアジアから撤退していくなら、「アジアの空白」を埋めるのは、チャイナ・パワーとなるに違いないからだ。

いまや青息吐息の中国経済

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だが、「歴史とは予測不能な波乱の集積」と言うように、中国がこのまま順調に台頭し続けるとは限らない。

まず、1978年末に鄧小平が主導して改革開放政策を始めて以降、怒濤のように成長してきた中国経済が、いまや青息吐息となりつつある。そんな時、中国の最高指導者は、毛沢東ばりの経済オンチである習近平主席なのだ。

政治的には、「プーチン大統領のロシア」のような習近平主席の独裁体制になりつつあるが、それでも来年秋の第19回共産党大会へ向けて、ナンバー2の李克強首相率いる「団派」(共産主義青年団出身者)の反撃が始まっている。何と言っても「団派」は、8000万人ものエリート集団なので、そう簡単に屈服はさせられない。

13億8000万人の中国人も、毛沢東主席を妄信していた前世紀の中国人民とは違う。いまや年間1億人以上が海外旅行に出かけ、インターネットとSNSで、世界中の情報と日々接している。独裁体制をすんなり受け入れる「土壌」ではないのだ。

対外的にも、今年5月20日には「台湾独立」を綱領に掲げる民進党の蔡英文主席が、台湾総統に就任した。また、中国が南シナ海の埋め立てを強行するほど、ASEANは中国への警戒を強めていく。そもそも中華思想は、自由・民主といった人類の普遍的価値とは相容れない。

いずれにしても、習近平主席の「パックス・チャイナ」戦略は、日本も巻き込んで進んでいく。その意味で、隣国の状況を深く識ることが大事である。

講談社「本」7月号より転載)

近藤 大介 『週刊現代』特別編集委員

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こんどう だいすけ / Daisuke Kondo

1965年生まれ。埼玉県出身。東京大学卒業、国際情報学修士。講談社『週刊現代』特別編集委員、『現代ビジネス』中国問題コラムニスト。明治大学国際日本学部講師(東アジア国際関係論)。2009年から2012年まで、講談社(北京)副社長を務める。『未来の中国年表 超高齢大国でこれから怒ること』『パックス・チャイナ 中華帝国の野望』(ともに講談社現代新書)、『「中国模式」の衝撃』(平凡社新書)など著書多数。

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