習近平は政治改革を避けて通れない 景気・経済観測(中国)

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しかし、その先を見据えた持続的な成長の基盤を作るために中国共産党に与えられている時間は長くはない。

国連の低位推計によると、2015年をピークに中国の生産年齢人口は減少に向かう。その影響を緩和するためには、都市と農村で分けられた戸籍制度や退職制度の見直しが必要だ。また、生産年齢人口減少の過程で賃金上昇が生じやすくなるが、賃金上昇に見合った生産性の向上を果たせなければ、持続的な成長は困難となる。いわゆる「中所得国の罠」である。

それを回避するためには、教育改革、民間企業に対する参入規制の緩和など、多方面にわたる改革が必要となる。また、高齢化を見据えた社会保険制度の整備などにより「安心社会」の構築を急がなければならない。しかし、いずれも生活に密着した、利害関係の調整が大変な分野である。

巷間、習近平新指導部は、既得権益側の代表が多く、改革は前に進まないとの評も聞かれる。他方、既得権益側の人間だからこそ身内の説得がしやすく、共産党の先行きに対する強い危機感さえ共有されれば、改革は進むとの論理も成り立ちうる。

どちらの見方が正しいかは、今後の実践を見るより他ないが、政治改革なくして持続的成長のための改革推進が困難となりつつあることは確かである。習近平新指導部の度量と胆力が問われている。
 

伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員

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いとう・しんご

1970年生まれ。東京大学卒業。93年富士総合研究所入社、2001年から03年まで台湾経済研究院副研究員を兼務。みずほ総合研究所を経て18年に国際経済研究所入社。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

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