ヒット商品を真似して、必ず惨敗するワケ だから星空ツアーやルンバは独り勝ちする

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阿智村はこうして見つけた強みを活かし、マーケティング戦略を策定していった。ではどのように考えたのか?筆者が提唱する「お客様が買う理由を作るフレームワーク」で阿智村の戦略を整理すると、次のようになる。

中京圏以外からの新たな集客が急務だった阿智村は、「日本一の星空ナイトツアー」のターゲット顧客を、「首都圏にいる20代前半の若者カップル」と設定した。彼らが何を求めているかは、先のスキー場スタッフを考えればわかる。「身近な旅行でワクワク・ドキドキの体験をしたい」のだ。そのためには何を提供すべきか?天体観測ではない。星空を楽しむための「星空エンターテイメント」だ。ライバルはディズニーランドだ。

しかしこの「お客様が買う理由」は、考えるだけでは絶対に正解にたどり着かない。「お客様が買う理由」は、あくまで仮説だ。だから実際にリアルな顧客で、この仮説を検証することが必要だ。阿智村はこの仮説を実際にリアルな顧客で検証し続けた。たとえばこの「星空エンターテイメント」で、本当に若者カップルが「ワクワク・ドキドキの体験」ができるのかは、星空の解説をするスターガイドが中心となって検証を続けた。スターガイドたちは毎晩ナイトツアーを行うたびに反省会を行い、細かい試行錯誤を繰り返して経験を積み重ねながら学んでいった。

安易な発想ではできないこと

自分ならではの強みを見極める。その強みを必要とする顧客を見定める。その顧客が何かを必要としているかを把握する。そして「お客様が買う理由」を創りあげる。さらにあくなき仮説検証で試行錯誤を繰り返し学びながら、「お客様が買う理由」を磨き上げていく。これはマーケティング発想そのものだ。ここには「よそで成功したものをそっくり真似て持ってこよう」という安易な発想はない。

観光業以外のビジネスでも同じだ。私たちビジネスパーソンは、「ヒット商品を模倣すれば、ある程度は確実に売れるはずだ」と考え、ヒット商品を詳しく調べ上げて、模倣商品を開発・販売する誘惑に駆られがちだ。しかし先行するヒット商品を模倣して「2匹目のドジョウ」を狙ったものの、先行するヒット商品を追い抜くどころか、なかなか売れない商品は決して少なくない。

たとえば、自動おそうじロボットの「ルンバ」。ルンバの登場は2002年。14年前に誕生し、自動おそうじロボットという市場を創造したルンバは、2014年時点でも国内の自動おそうじロボット市場でシェア66%とほぼ独占している(シード・プランニング調査)。この市場にはライバルは10社以上あるが、まさにライバルが束になってもルンバにかなわない。

ルンバを開発・販売するアイロボット社は、家電メーカーではない。「ロボット技術を活かしてよりよい世の中を作ろう」と考え、創業された会社だ。強みはロボット技術だ。これまで様々なロボット製品を生み出してきた。ルンバもアイロボット社ならではのロボット技術という強みを活かし、「大都市圏30代~40代共働き世帯」をターゲット顧客に定めている。

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