自民・船田氏「憲法改正、安倍首相とは一線」 改正のキーマンが「あの事件」も大胆に語った

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有馬:最近、自民党には「憲法改正で9条のことを声高に叫ぶのは得策ではない」ではないと考えたのか、憲法改正では大災害時などの対応を定めた「緊急事態条項」の創設を優先しようとの声がありますね。憲法草案にも盛り込まれており(第九章 第九十八条)、災害を理由にすれば改憲への国民の抵抗感も薄れるのでは、との疑問もわきます。

緊急事態条項だけでなく、環境にしても福祉などにしても、憲法改正するのではなく、個別の法律でできるのではないかという批判もありますね。

日本もドイツの苦い経験から学べ

船田:草案の九十八条や九十九条のいわゆる「緊急事態条項」では、政府の権限拡大が明記されています。たとえば政令に法律と同じような拘束力を持たせたり、予算の自由度を大きく増したり、国民の権利を一部制限する、などですね。さらに国会議員の任期の特例についても明記しています。

たとえばドイツでは、かつてあれだけ民主的と言われたワイマール憲法下において、ヒトラーが大統領緊急令を定めた48条を悪用し、ナチスの台頭を招きました。緊急事態の下ではつねに何でもやって良いという考え方で暴走してしまったのです。戦後のドイツ憲法でも緊急事態の条項は存在するわけですが、この反省を踏まえ、ドイツでは連邦政府(国会)が緊急事態を確定し、行政府に緊急事態の決定権を与えていません。

日本もこのドイツの経験から学ぶ必要があります。私は、緊急事態条項でやるべきことは、当面国会議員の任期の特例を設けて、どんな事態になっても国会が機能するようにしておくべきだと思っています。国の権限をいたずらに高めることについては、慎重にすべきです。

「結果的に憲法を改正しないということでもいい。憲法を俎上に挙げ投票して、国民が憲法を自らの手で決めているという実感をもってほしい」

また、環境権なども憲法改正の項目に入れなければならないのか、ということについては議論の分かれるところです。

環境も基本的人権の一部であり、自民党にも賛成者が多い。実際、公害の問題などは、憲法ができたときは想定されていませんでした。憲法で意識を高めていかないと環境を守れないとの声も大きいのです。

一方で、憲法に掲げると開発などがしにくくなるという懸念の声もあります。私自身は、環境意識を高めるうえでは、環境権を憲法に書くことは意義のあることだと思っています。

有馬:決してあおっているわけではありませんが、今後、憲法改正の問題では同じ改憲派でも「リベラルな船田」対「安倍首相」という場面が出てくるような気がします。

船田:私が最後に申し上げたいのは、こうした議論を通じた憲法改正の大切さです。帝国議会での承認はありましたが、大半の国民の皆さんは、自分たちで今の憲法を承認しているという認識が薄いと思います。結果的に憲法を改正しないということでもいいのです。憲法を俎上に挙げて投票をすることで、国民が憲法を自らの手で決めているという実感をもっていただきたいのです。

【有馬の目】戦後史上最年少大臣(39歳)から、はや20年余。「将来の総理」のレールから、「鳩船新党」の破談、自民党離党で脱線。出戻り組に厳しい自民党で辿り着いた居場所が憲法調査会。何がなんでも改正ではなく、時代にあった“点検、見直し”論は、聞き応え満点。

 

(構成:福井純、写真:今井康一)

有馬 晴海 政治評論家

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ありま はるみ

1958年 長崎県佐世保市生まれ。立教大学経済学部卒業。リクルート社勤務などを経て、国会議員秘書となる。1996年より評論家として独立し、テレビ、新聞、雑誌等での政治評論を中心に講演活動を行う。政界に豊富な人脈を持ち、長年にわたる永田町取材の経験に基づく、優れた分析力と歯切れのよさには定評がある。ポスト小泉レースで用いられた造語「麻垣康三」の発案者。政策立案能力のある国会議員と意見交換しながら政治問題に取り組む一方で、政治の勉強会「隗始(かいし)塾」を主宰し、国民にわかりやすい政治を実践している。主な著書に「有馬理論」(双葉社)、「日本一早い平成史(1989~2009)」(共著・ゴマブックス)「永田町のNewパワーランキング100」(薫風社)、「政治家の禊(みそぎ)」(近代文芸社)など。

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