米国の自動運転、ネックは「ボロボロな道路」 車線認識も難しい劣悪な道路網が普及阻む

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こうした製品としては、無線や光を使って周囲の物体をリアルタイムで高精度検知するLIDAR(ライダー)というセンサーがある。シリコンバレー企業のベロダインが開発してグーグルの自動運転車にも搭載された初期のライダーは7万5000ドル(約840万円)もした。

多くの企業が低価格化を進めており、今年1月に同じくシリコンバレー企業のクアナジー・システムズが発表した、小型で可動部分のないライダーの価格は250ドル(約2万8000円)だ。しかし、自動車メーカーは100ドル割れを望み、クアナジーは2018年までにその目標を達成すると約束している。

また、独メルセデスは最近公開した高級車種「Eクラス」の2017年モデルについて、車線表示がなくても自動運転可能だとしている。搭載した23個のセンサーが機能して道路状態を判断するため、スピードを時速135キロまで出しても「適切な」走行が可能だという。

ただ、ボストン・コンサルティング・グループは、この機能実現のために1台当たり4000ドル(約45万円)が販売価格に上乗せされていると推計。この技術をさらに磨くためのリサーチ費として、自動車メーカーが今後10年で要する費用は10億ドル(約1120億円)に達すると試算している。

さらに、米マッピング技術会社ジオデジタルのクリス・ウォリントンCEOによると、独HERE社やオランダ企業トムトムなどは、車の位置を誤差数センチ以内で把握できるようにする3Dマップを開発中だ。同CEOによれば、自動車メーカー側はこうしたマップの価格を現在の実勢価格よりも低い50〜60ドル(約5600〜6700円)に抑えるよう求めている。

まずは信号機の形から

しかし、以上のような技術はすべて、まだ一般化してはいない。米自動車部品会社デルファイ・オートモーティブ・システムズのゲイリー・オブライエン取締役はこの点をとらえ、車線表示の整備こそが焦眉の急だと強調する。彼は旅行先のユタ州の砂漠地帯で撮ったという悪路の写真を見せながら「見てくれよ。まったく車線が分からないだろ」と語った。

こうした声を背景に当局も動き出してはいる。米運輸省は今夏、4000万ドル(約45億円)を投じ、コンペ形式で選んだ1つの市に自動運転車用のインフラなどの新技術を導入する事業を行う。政府の諮問機関、米国交通輸送調査委員会(TRB)も2017年までに、車線表示の標準化に関する答申を行う予定だ。

テキサスA&M大学でインフラ調査を専門に手がけるエンジニアのポール・カールソン氏は、自動走行車を実現する方策を運輸当局にたずねられたとき、こう答えたという。「まずはみんな決断しようよ。信号機は縦向きにしたいの? それとも横向き?」。

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