正解のない世界で、自分の頭で考え行動する 東洋大学
第11回は、ネット印刷サービス事業などを展開するラクスルを2009年に創業した松本恭攝社長と、東洋大学・国際地域学部国際地域学科の荒巻俊也教授が対談。東洋大学が2017年度に設置を構想するグローバル・イノベーション学科※のテーマとなる、イノベーション力やグローバル人財のあり方について語っていただいた。
荒巻 2009年に24歳で設立されたラクスルは、2015年には資本金58億円(資本準備金含む)に増資されるなど、大変な注目を集めています。松本さんがラクスルを起業したきっかけは何でしょうか。
松本 原体験は、学生時代に、日中韓を中心とした学生による国際ビジネスコンテスト「OVAL」を開催したことにあります。大学1年生の時にかかわった当初は、まだコンセプトしかない状況で、有識者からのアドバイスは、日中韓の国際関係を考えると非常に難しい、という否定的なものばかりでした。しかしながら、実際にやってみると2003年末に日本で実行委員会が結成され、半年ほどで北京やソウルにも組織が発足、2005年にコンテストを開催することができました。評論家はやり方を知らないが、実行者なら見えていることを実現できる。そして、情熱を持って行動を起こせば、どんなに無理だと言われたこともゼロから実現できる。その楽しさ、エキサイティングさを知った成功体験が大きかったと思います。どんなに権威がある人でも言っていることが正しいとは限らない、という考えのもと、自分の頭で考えて行動する大切さも学びました。
荒巻 おっしゃるとおり、クリティカルシンキング(批判的思考)は学生に身に付けてもらいたい重要な能力だと考えています。高校までは教科書がありますが、大学では決められた教科書はなく、教員の考え方が反映される授業で学ぶことになるので、学生が授業を通じてどれだけ物事を批判的にとらえられるかが問われます。ところで、ラクスルの事業内容は、私にはとてもイノベーティブに感じるのですが、そう感じさせるポイントはどこにあるのでしょうか。
松本 当社は「仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる」というミッションを掲げ、印刷業やトラック物流という古いタイプの産業にインターネットを掛け合わせることで、産業構造を変えようとしています。印刷会社をインターネットでつないで、印刷機の非稼働時間に印刷してもらうことで稼働率を最適化し、大量の注文を受けて版代をシェアすることにより、高品質の印刷物を安く、早く、便利に届けます。当社の顧客25万社の大半は中小企業で、その顧客単価は1万円強と、一般的な印刷の仕事の平均単価の20分の1です。これは、インターネットで事業展開することにより、営業コストなどの固定費を削減でき、小ロットからの注文が可能になったためです。さらに、プロによるチラシのデザインサービス、ポスティングや新聞折り込みをオンラインで依頼できるサービスも用意して、中小企業の販促費を効率化しようとしています。
荒巻 海外事業については、どのように展開しているのでしょうか。
松本 当社が培ったノウハウを海外にも展開するべく、シンガポールに投資会社を設立し、アジアを中心とした海外のネット印刷サービスを手掛けるスタートアップに投資しています。海外展開においては、私たちが会社を運営するのではなく、あくまでもノウハウを提供し、現地の会社に資本参加させていただくことで、世界規模で産業構造を変え、世界をもっとよくしていきたいと考えています。