筑波大学大学院文芸言語研究科博士課程修了。英語学専攻。オックスフォード大学言語研究所客員研究員を経て現職。『ネイティブスピーカーの英文法』(研究社)、『ハートで感じる英文法』(NHK出版)、『一億人の英文法』(東進ブックス)、『ビジネスパーソンの英語』(日本実業出版社)など、数々の著作がある。NHK Eテレの講師としても活躍し、2013年10月より「しごとの基礎英語」講師を担当
必須スキルを身に付ける
ための3つのポイント
英語力、特に会話力は今やビジネスパーソンにとって必須の能力です。でも実際のところ、偶然書店で見つけた本を時々読んでみる程度の「学習」しかしていない、それがほとんどの方の正直なところではないでしょうか。それでは時間の垂れ流し。しっかりとポイントを押さえた学習をしなければ英語は手に入りません。
英会話攻略には必ず押さえるべき3つのポイントがあります。日本人共通の「弱点」と言ってもいいでしょう。まずは「英語理解」、文法の話です。多くのビジネスパーソンが英語をやり直そうとするとき、思わずやってしまう行動は、①中学校文法に立ち返る、②学校文法を極める、③海外の文法書に手を出す、の3つ。学校で英語の基礎を学んでいないのならいざ知らず、普通に受験英語をくぐり抜けた方なら、どの選択肢もあまり意味はありません。それなりに中学校文法をマスターしていた時代に英語を話すことができましたか? 文法に精通しているはずの先生は、すばらしい英語を話していましたか? 私たちが学んできた文法学習には致命的な欠陥があるのです。
それは「語順」です。文法は文の作り方の基礎。であるなら、文の要素をそもそもどう配置すれば英語らしい文ができあがるのか、語順の学習と習熟が何よりも重要な学習事項のはず。ところがこれまでの文法にそうした観点はありません。英文和訳が英語教育の目標であったことを考えれば仕方のないことではありますが、話すことを考えれば、致命的な欠陥です。
英会話に向かい合ったその瞬間から、私たちは「左から右に」、英語の語順で瞬時に文を作り出すことを求められます。そしてそれは英語とまるで異なる語順を取る日本語を話す私たちにとって、とてつもなく大きなハードルなのです。このハードルは既存の文法でも海外の文法書でも乗り越えることはできません。海外の文法書は語法の説明に秀でたものが多いのですが、これほどまでに語順の異なる学習者を念頭において書かれているわけではないからです。
文法攻略法としてビジネスパーソンに最適なのは文法書やりなおしよりも、語順に特化した音読です。I think that…とあれば「〜と思う」と訳を考えるのではなく、語順に忠実にthinkの内容を説明する意識で後続を展開していく。I was excited to hear about your new project. なら「君の新しいプロジェクトを聞いて」と後ろから考えるのではなく、「わくわくなんだよ」の説明をto以下に展開。そうした語順に忠実な音読練習を繰り返し、英語の語順を徹底的にカラダに染み込ませるようにする、それが大切です。
次のポイントは「発音練習」。個々の音というより、むしろ英語のクセに特化した練習が大切です。日本語とは違い英語ではstructureなど頻繁に子音が連鎖します。「ストラクチャー」と、存在しない母音を加えて発音しては英語に聞こえません。また、文は忠実に辞書通り発音されるわけでもないのです。「語末の子音は消え」、「単語を越えて音はつながり(come onは「カモン」ですよね)」、「重要でない母音は弱化」されます。是非、こうしたポイントに沿って練習できる本を1冊仕上げてください。短期間で見違えますよ。
最後のポイントは「表現の意味を日本語訳を越えてつかむ」。私たちは「英単語の意味=日本語訳」と考えがちです。これでは英文和訳はできても自由に話すことはできません。
たとえばsmallとlittle。どちらも「小さい」ですから、使い分けなど不可能ですよね。この2つの単語、ネイティブは区別しています。「人魚姫」はThe Little Mermaidでなくては困ります。littleには「ちっちゃくてかわいい」といった感情が乗るからです。small mermaidなら「小人魚」と、なにやら生物種を表しているように感じます。smallはlarge同様、サイズを客観的に表す単語。大中小の「小」だからです。それがわかれば服のサイズが(客観的な)L、M、Sであることも理解できるはず。
話せる英語を目指すなら、日本語訳の向こうを目指さねばなりません。ネイティブの言い回しにしっかりアンテナを立て「なぜその単語を使うのか」しっかりニュアンスを身に付けていかねばなりません。
近道はない。だけどやれば
やるほど身に付くのが英語
さて、以上のポイントを踏まえながら1つだけ、毎日やっていただきたいことがあります。それは「ネイティブの文を丸ごと覚え続けること」。僕たち日本人が日本語を上手に操れるのは、無数の文を(無意識のうちに)頭に入れているからです。「お客様がおかけになった電話番号は」の続きは「現在使われておりません」ですよね?。英語ネイティブも同じですよ。よどみなく会話ができるのは、英作文が速いからではありません。使うべき文がほとんど頭に入っているからです。
同じ能力を得たければ、目にした英語文を逐一、徹底的に頭に入れなければなりません。会話力は、頭に入れた文の数に比例して伸びていきます。ここに近道はありません。でも素敵なことじゃないでしょうか。やればやるだけリニアに力が伸びるのです。
実はNHKの語学番組『しごとの基礎英語』で、出演者にお願いしているのは「番組で扱った文はすべて覚えてくださいね」、それだけです。ご覧になっている方はおわかりになると思いますが、それだけでみるみる英語力が上がっています。語学では、努力は必ず報われるのですよ。