JA鳥取いなば

砂丘らっきょうの魅力を解き明かす

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シャキシャキの食感のために3割の薄皮をむく

では、「砂丘らっきょう」のブランドを支えるために、商品としてどんな工夫がなされているのだろうか。次に魚住さんが訪れたのが、JA鳥取いなば福部らっきょう加工センターだ。地元で採れたらっきょうをここで加工している。

魚住さんが加工センターに入って最初に驚いたのは、その匂いだ。同センター長(取材時/現 福部支店長)である上原伸一さんが、笑顔を見せながら、こう言う。

「らっきょうの匂いは強いですから。私たちは慣れていますから何も感じませんが。でも、収穫時はもっときついですよ(笑)」

魚住さんの目の前には、加工らっきょうの原料管理をしている地下タンクの施設がある。こちらでは約300tのらっきょうが管理されている。

「今は去年の6月に収穫したらっきょうを、地下タンクに漬け込み、塩漬けして乳酸発酵させています。漬ける期間は約2カ月。その後、発酵させた水をすべて抜き取ります(水切り一網200kg!)。そして発酵させた塩分濃度よりも低い塩水で再度漬け込むのです。そのとき大事なのが温度管理です。塩水を熱交換器を通して循環させながら、低温で管理しています。実はこの低温管理こそ、砂丘らっきょうの特徴である色の白さを持続できる秘密なのです。さらに、らっきょう本来の風味を残すために、あえて加工らっきょうは薄味に仕上げております」

塩抜きのプロセスにお邪魔した。右はJA鳥取いなば福部支店長、上原伸一氏

砂丘らっきょうは、低温管理で薄味に仕上げているので短時間で塩抜きできる。本来の風味を残すことこそ、砂丘らっきょうのこだわりだという。

「そのせいか、初めて砂丘らっきょうの加工商品を食べられた方から、『いつも食べているらっきょうと違う味がする』という問い合わせをいただくことがあるんです。そんな時『こちらでは低温管理をして本来の風味を残しながら、薄味に仕上げています』と言うと、なるほどと納得していただけます。しかも、砂丘らっきょうの特徴であるシャキシャキ感を実現するために、らっきょうの薄皮を最低でも3割ほどはむいているのです。時には半分ほどにむくこともあります。1枚1枚が同じ薄さで折り重なっているからこそ、シャキシャキした食感となるのです」と上原さん。魚住さんを意識してか「同じ厚さの層が重なるミルフィーユを想像してみてください」と笑った。

夏の地表温度は60度

話を聞いた魚住さんは、次にこう思った。「どんなところでらっきょうはつくられているのか」。そこで、実際のらっきょう畑に魚住さんを案内してくれたのが、福部らっきょう生産組合長会長の香川恵さんだ。地元のらっきょう農家約80戸を束ねているリーダーであり、らっきょう栽培のプロフェッショナルだ。

これから収穫の時期に向けて、球が割れて1つひとつが太っていく。キメの細かい砂地という土壌もおわかりいただけるだろう

「このらっきょう畑は、砂のキメが細かいため、保水力がありません。地下水はかなり地層の低いところにあり、水がない土壌なんです。北西の季節風で打ち寄せられた砂が舞い上がってきて丘になりましたから、畑の下は砂の層が何十メートルも続いています。ですから、いくら肥料をやっても、雨が降れば下方に流れ込んでしまう。吸収しようとしても量が少ないので、一気に球が太ることがないんです。皮が1枚1枚薄く、何重にも重なるらっきょうができる理由が、ここの土壌と気候にあるんですよ」

らっきょう畑を見渡す魚住さんの目の前には、緑の葉が広大な畑の一面を覆っている。でも、らっきょうらしきものは見えない。らっきょうはどのように育つのだろうか。

「らっきょうは砂の中にあって、この時期は葉を一生懸命育てている段階なんです。今は葉の色が薄かったり、葉先が枯れたりする病気が心配です。もし葉がきちんと光合成できていないと、4~5月に根のほうのらっきょうに栄養が転流していきませんから。球太り(たまぶとり)に影響してくるのです。そのため、今はきれいな葉をつくることが大事なのです」

砂丘らっきょうの植え付けから収穫までの流れは次のようなものだ。植え付けは7月下旬~9月下旬、開花が10月下旬~11月上旬、収穫は5月下旬~6月中旬が目安となる。

「7~8月に畑を全部掘り上げて、1球ずつ植え付けを行います。1年経つと、1球が7倍くらいに増殖します。収穫された量のうち、15%は次の種として残して、残りの85%を出荷するかたちになります」

一口に植え付けといっても、夏の盛りの時季に広大な畑に植え付けするだけに、その作業は大変だ。魚住さんも畑の広さを見渡して納得する。香川さんが植え付けの苦労について話を続ける。

「V字型の畝(うね:物を植えるため、幾筋も土を盛りあげた所)を1列ずつつくって、その先端に植え子さんが1球ずつ植えていきます。だいたい1人で1日1万5000球植える計算になります。夏の気温は30度以上ですが、地表の温度は60度にもなります。しかも砂ですから乾くと、きちんと畝が立たない。そのため夜のうちにスプリンクラーで水を撒いて湿らせますから、植え子さんには暑さと湿気がダブルで襲ってくる。非常にきつい作業になるのです」

らっきょう好きの魚住さん。質問にも熱が入る。1つひとつ丁寧に説明してくれるのは、福部らっきょう生産組合長会長の香川恵氏だ

約3000人の“切り子さん”が活躍
「砂丘らっきょう」は次の100年へ

小さいらっきょうをつくるための作業は、まだまだあるらしい。香川さんの話に魚住さんも感嘆している。

「植え付けをしてからも、とにかく一年中作業があります。草取り、肥培管理(害虫の駆除なども含め総合的に管理すること)、消毒ほか、年末にかけて“土寄せ作業”が必要になります。らっきょうは球が大きくなると株が割れてきて、そこから光が入ると、青いらっきょうになってしまうんです。その光を防ぐために砂を盛っておくと、あとは砂丘の風が自然に割れ間に砂を入れてくれるのです」

そして収穫後に待っているのが、らっきょうの根を切る作業だ。こちらも「切り子さん」と呼ばれる切る作業を専門に行う人を雇って行う。

「切る作業も、1球ずつ、包丁を立てて切っていくんです。しかも、手作業です。アルバイトで切り子さんにお願いするのですが、うちでもシーズン1カ月で35人くらいの方にお願いしています。今約80戸の農家がありますが、福部のらっきょう全体では約3000人の切り子さんにお願いしています。こうした作業も少しでも軽減したいと、JAと対策を話し合っています」と香川さん。「それは心強いですね」と魚住さんが返すと「おかげさまで植え付けの方は機械化のメドが立ちました」と笑みをうかべた。

こうしてつくられる「砂丘らっきょう」の歴史は、100年と長い。古くは江戸時代に参勤交代の付け人が持ち帰ったことが始まりだとも伝えられ、少数の農家が自家用で栽培していたが、大正初期に産業組合が設立され、本格的に生産と販売を行うようになった。その後、らっきょうが干ばつに強いこともあり、作付けが広がっていった。「砂丘らっきょう」は現在「洗いらっきょう」「根付らっきょう」ほか、「加工らっきょう」に分類され、全国で販売されている。2005年には「砂丘らっきょう」の商標登録がなされたほか、2010年度地域食品ブランド表示基準制度「本場の本物」にも認定された。2014年には販売開始から100年を迎え、現在、次の100年に向かって走り始めている。香川さんはこうした歴史を踏まえつつ、次のように語る。

「GIとして認められたのはありがたいこと。さらなるブランド化の追い風になってほしい。そのためにも農家はさらに良いものをつくらなければいけません。次の100年を目指すためにも、さらに気を引き締めてがんばろうと思っています」

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