キンドルが変える! 出版業界の“旧秩序”《アマゾンの正体》

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 そして3番目が「米国独自の環境」だ。米国では2年ほど前から新聞業界の衰退が著しい。宅配が止まった町も多く、紙の新聞を読むことに慣れ親しんだ世代は不満に感じていた。また90年代に進んだ大型チェーン化で独立系の書店の数も減少し、書店へ行くのに車で1時間かかるような町はザラ。アマゾンに注文しても、到着まで数日待たされるような所に住んでいる人も多い。そういう人にとって、「どんな本も60秒で買える」キンドルはまさに救いの神なのだ。

ただし、キンドルの操作は複雑で、使い勝手がよくないとの悪評もある。それもあり、アマゾンはキンドルのユーザーのコミュニティを全米主要都市に設置した。ニューヨークなどの大都市では、キンドルユーザーのオフサイトミーティングも行われており、お互いに使い方などを教え合っている。

キンドルとは対照的な事業展開をしているのが、ソニーの「リーダー」だ。リーダーはアイコンを見ながら直感で操作できるようにインターフェースを工夫している。ビジネスモデルも真逆だ。アマゾンが自社の圧倒的な顧客基盤を背景に、キンドル独自のファイルフォーマット「AZW」でコンテンツを囲い込み、垂直統合型の世界を形作っているのに対し、ソニーは米出版業界標準のEPUB(米大手出版社のハーパー・コリンズやランダム・ハウスが採用)に対応している。さらに、アドビ社のフォーマットである「PDF」、マイクロソフト社の「XPS」などIT業界のデファクトにも対応している。

この「オープン戦略」が奏功し、仲間作りにも成功している。特に、心強い味方がグーグルだ。7月末、ソニーとグーグルは、グーグルが保有する100万冊に及ぶ著作権フリーコンテンツがソニー「リーダー」で読めるようになったと発表。コンテンツの「量」では、アマゾンを大きく凌駕した。米ソニー・エレクトロニクスの野口不二夫デュプティプレジデントは「オープン、グローバルという点でソニーは先を行っている」と胸を張る。

もちろん、グーグルのポリシーも「オープン」。ソニーだけと組むわけではない。グーグル・ブックスのエンジニアリング・ディレクターを務めるダン・クランシー氏は言う。「興味があるすべての電子ブック業者とパートナーを組むつもりだ。電子書籍コンテンツをグーグルが保存しておき、それに対してフリーにアクセスできる環境を提供したい」。

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