ベーシック・インカムの哲学 すべての人にリアルな自由を フィリップ・ヴァン・パリース著/後藤玲子、齊藤拓訳~働く人にも働かない人にも「基本所得」の導入を提唱

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ベーシック・インカムの哲学 すべての人にリアルな自由を フィリップ・ヴァン・パリース著/後藤玲子、齊藤拓訳~働く人にも働かない人にも「基本所得」の導入を提唱

評者 橋本 努 北海道大学大学院准教授

 不況の中、正社員の雇用ばかりが守られて非正社員が解雇されていくというのは、なんとも不公平ではないだろうか。経済成長のためには仕方ないという、そんなやるせない空気が蔓延しているように思われる。

労働者はこれまで組合運動を通じて、自身の雇用条件を改善してきた。けれども組合員の資格がない非正規雇用者は、どうやって自身の生活を守ることができるのか。

この問題に、斬新な解決を与えようというのが本書である。最近になって台頭してきたベーシック・インカム(基本所得)論の最重要書だ。

正社員の雇用だけを守るのではなく、非正社員も、失業者も、あるいはニートも含めて、人々の生活そのものを守る。そのためには、ずばり、働く人にも働かない人にも、みんな同じ基本所得を一律に分配してしまえばよいというのである。

すると非正規雇用者は、解雇されても生きていける。劣悪な労働条件の下でプライドを傷つけられることもない。嫌になったら辞めればいいからだ。基本所得が一律に分配されれば、労働者階級は資本の抑圧から解放されて、真に自由な生活を享受できるだろう。

あまりにも奇抜なアイディアと思われるかもしれないが、本書の論理は周到だ。政府は基本所得だけを配分する。それ以外のたとえば、失業保険や雇用対策のための公共事業は廃止する。年金も医療保険も就業支援も廃止する。生活保護者を認定・更新するための、煩わしい手続きも必要ない。

つまり本書は、基本所得のみにこだわって、政府支出の多くを削減しようというのである。さらに著者は、経済成長を阻害しないという条件の下で、基本所得の導入を提唱している。これは経済自由主義者にとっても、歓迎すべきかもしれない。

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