トヨタにはできなかったホンダLOL戦略の威力

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インドで仰天値付けを可能にしたホンダ人気

中国と並ぶ自動車新興国インド。ここでホンダは米国より先に市場の下降を経験した。5年間で平均17%ペースの高成長に昨年6月、急ブレーキがかかったのだ。2008年度の成長率は0・1%と横ばいに終わった。中でもホンダの販売台数は主力の上級セダン「シティ」のモデル端境期にも当たったため、7・1%減と惨敗。6万台の能力を持つ第2工場建設計画も延期に追い込まれた。

幸い今年2月以降は、政府の減税や金利引き下げで市場は回復。そんな中、ホンダは大胆な施策に打って出た。

6月10日、ホンダはニューデリーでついに「フィット」(現地名ジャズ)を発表した。インドでは小型ハッチバック車は市場の7割を占める。これまで上級車領域だけで商売してきたホンダにとって、満を持しての参入となる。

ただ、その価格は約70万ルピーからと、下馬評よりかなり高いものだった。相場は35万~40万ルピー、一回り大きい人気のスズキ「スイフト」の最上位モデルでも55万ルピーあれば買える。

「ジャズが70万ルピーになったのは、為替のせい。経済危機以後、インドルピーは約3割下落した。2割超の部品は日本やタイから輸入しており、打撃は大きい。シティも80万ルピーから85万ルピーへ値上げしている」と現地子会社ホンダ・シェル・カーズインディアの武田川雅博社長は明かす。

とはいえフィットは世界のベストセラーカー。「ゆったり大きいし、荷室も広いし、それでいて前の鼻が短いから取り回しもいい。新たなハッチバックの価値を提案できる」と胸を張る。もう一つ、武田川氏の自信を支えるのは、30万人を超えたホンダ車保有者の存在だ。うち20万人は一家で何台も買う複数保有者。「一度乗ればホンダのよさが嫌でもわかるから、黙っていてもジャズを注文してくれる」。70万ルピーでも、シティより15万安ければ、ホンダファンには十分に訴えるとはじく。

実は、この考え方はインドのオリジナルでも何でもない。その正体は、世界のホンダ社員なら皆が知る、だがそれ以外は誰も知らない「ライフタイム・オーナーシップ・ロイヤルティ(LOL)」だ。

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