ITエンジニアを待ち受ける大量失業の危機 期待の「IoT」需要はベンダーを素通りか

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IT受託業の問題は多階層構造ではなく、同類・同質企業が連鎖する多重受発注にある。元請け→下請け→孫請け→ひ孫請けと伝言ゲームが行われているうちに、スペックが正確に伝わらなかったり曲解されたりする。加えてユーザーの要望が曖昧なことが少なくない。ソフトウエアは目に見えないので、何がいけなかったのか、どこで間違ったのか、修正が難しい。

「人月の神話」の成功体験

もうひとつの問題は、利益の配分機能を果たしていたトリクルダウンの仕掛けが、この10年間で利益収奪の仕組みに変質していることだ。元請けは受注総額の20~25%をまず自社の利益として確保し、残りの予算で外注を使う。そして取引が発生する(契約を更新する)たびに、発注先(受注企業)に10%から20%の値下げを要求する。開発案件の契約期間は平均3カ月なので、年4回は値下げ交渉が行われる。その結果、受注価額が10年間で3割減少しているのだが、孫請け、ひ孫請けの中小・零細IT受託会社の低減幅はもっと大きい。

IT受託業は「技術が人に付いている」ために、技術提供=技術者派遣ということになりがちだ。その対価は技術者一人当たり月額(人月)で積算され、そこから給与が支払われる。以前は就業者の給与は経費だったが、この10年でコストに位置付けられるようになった。

利益を増やす手っ取り早い方法はコストを下げることなので、多くの企業が就業者の給与上昇を抑制し、非正規社員を増やした。正規雇用者の給与は10年前と比べて6.16万円増えたが、就業者全体に占める非正雇用者の率は13.7%から25.6%に、ほぼ倍増している。

IT受託業が高度化するには、システム構築やソフトウエア開発に工学的手法を導入したり、ITサービスの自動化・機械化を図ったりすることが必要だ。装置産業化することで生産性を上げるのは産業革命以来の鉄則なのだが、IT受託業は正反対に動いた。10年間で就業者(非正規雇用を含む)を1.5倍に増やしてしまったのだ。

人を増やせば一定に売上高が増え、売上高が増えれば利益も一定に増えるという「人月の神話」の成功体験が、経営者のミスジャッジを誘導した。就業者一人当たり売上高の2005年比は上場企業220社で30.3%減、全体3.3万社で21.7%と、大きく減少している。

「IT受託業は終わるのか、というテーマでお願いできませんか」ーー。

ある中小事業者団体から講演を頼まれたのは2010年のことだ。SaaS(Software as a Service)、ASP(Application Service Provider)、クラウドといった言葉が目新しかった。ユーザー企業が業務処理のネットワーク(インターネット)依存度を高めたら、システム開発需要が激減するのではないか、がテーマ設定の理由という。

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