電通が作ったルールは自壊しかかっている--小田桐昭・オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン取締役共同会長/チーフ・クリエイティブ・オフィサー《広告サバイバル》
テレビの黎明期から日本の広告にかかわってきた電通OBが指摘する、業界の課題とは。
--広告が効かない世の中になったと言われますが、その原因は?
人々の欲望が変わってきたのが最大の要因です。昔は物質的な充足が幸せや豊かさにつながっていた。広告もまたその幸せの中にいた。でもモノがあふれ技術が進み世界が均一化してくると「特別なもの」はなくなっていく。加えて、日本独自の問題もある。一言でいえば、電通と博報堂が作ってきた業界のルールが自壊しかかっているということです。
たとえばテレビCMのほとんどは15秒スポットですが、別に消費者が15秒のCMを求めているわけではない。すべてはメディアの枠を効率的に売りたい代理店と商品を流通に押し込みたい広告主の都合です。
代理店は「広告効果を測るのは難しい」と言い続けてきた。しかし、海外なら広告が売り上げにどう影響したか、メッセージがきちんと伝わったか、当然効果を追求する。欧米の広告会社は1業種1社のクライアントしか持たず、いかに自社のクライアントがライバルに勝てるかに知恵を絞っています。しかし、日本の代理店は競合企業を何社も抱えている。だから、効果も明示できない。
--しかし、日本の企業も広告の費用対効果に敏感になっています。
経営者なら当然です。ところが最近は効率化で人材が減り、宣伝部からプロが消えた。その結果、起こったのが代理店への丸投げ。宣伝部は「タレントはこの人で何千GRP(総露出量)」というように社内で説明しやすいスポットCMばかりを安易に流すようになった。消費者不在という点では、代理店と同じです。
かつて企業はスポンサーと呼ばれ、面白いものを作る後援者だった。でも、ある時期から「クライアント=お得意様」になり、関係がビジネスライクになった。クライアントはアイデアから労働力まで代理店に依存しながら、コミッションが高いと文句を言い、報酬を削ろうとする。
もちろん、直接の責任は、成果物に対する明確なフィーではなく、あいまいなコミッションで儲けてきた代理店にある。クリエーティブはいつまでもメディア・コミッションサービスの一部で、独立できていない。広告効果が薄れるのも当然です。