言葉の“奥深く"にある文化を理解する 東洋大学
松岡 やはり日本語を話すメンタリティで外国語を話すのは難しいと思います。英語でも、言葉が自然に出てくるようになるには、英語圏文化を身に付けることが必要でしょう。私が大学に入学した時も、海外経験のある学生に違和感を持ちました。ただ、世界的視野ではやはり、はっきり話す方が当たり前で、黙っている方が変に思われてしまいますね。
大野 人にはそれぞれ背負っている文化があり、コミュニケーションとはその文化同士の衝突とも言えるでしょう。コミュニケーションで違和感を覚えた時は、まさに衝突の真っ最中。ところが、相互理解というものを、それぞれが背負った文化同士の融合とするならば、そうした融合は、まずは衝突し反発してみないと到達できない次元でもあります。
松岡 同一文化圏でも、違いが大きな人をいじめたり、疎外したりすることがありますが、国際的になると、それが何倍にも増幅されてしまう傾向があるように思います。ただ、グローバル化した社会では、純粋に一つの文化圏だけという環境はあり得ません。人は皆、それぞれ異なっているのです。相手とぶつかって違いを知り、多様性の理解を進めることが、人生を豊かにするのだと思います。
大野 おっしゃるとおり、日本人同士で日本語を話すだけの環境の中にとどまっていると、そうした違いにはなかなか気づけない。別の文化との違いを知る機会として、学生にはぜひ短期間の海外旅行だけでなく、海外での日常を体験してほしいと思います。また、コミュニケーションに必要な「文化理解」は、会話のコンテンツ、話題にも活かされます。語学はあくまでもツールです。日本の文化や芸術、あるいは東日本大震災後の復興状況など、外国人に質問されそうなことを予測し、知識として蓄えておくことも、大切な留学準備です。他文化と自文化との違いは、自分の文化をよく知り、客観視しないとなかなか見えてこないものです。さらに、相手の質問にもスムーズに答えられれば、会話も自然と弾みますしね。
松岡 たとえば片言の英語でも、技術者同士ならお互いに専門的な内容がわかっているので話が通じるということもあります。コミュニケーションをとれるようになって何をしたいのか、目的意識を持って自分を磨くことが大切でしょう。東洋大学では、グローバル化とコミュニケーションというものをどのように考えているのですか。
大野 私の所属する文学部では、国際文化コミュニケーション学科※を2017年4月に設立する準備を進めています。まさに語学力と文化理解力のバランスのとれた教育を目指しています。具体的には、英語と英語圏文化、ドイツ語とドイツ語圏文化、フランス語とフランス語圏文化の組み合わせだけでなく、異文化交流も学ぶことができます。つまり、日本の文化を英・独・仏・日といった多文化の一つとして理解し、外国語を活用して世界へと発信できる学生を育成する教育とも言えましょう。松岡さんのおっしゃったように翻訳やコミュニケーションが、語学力だけでなく文化理解によって可能となる行為であることを知れば、おのずと、外国文化とは何か、それに対する日本文化とは何か、ひいては自分のアイデンティティとは何かといった探求につながります。他者と自己の双方を見つめる探求心と広い視野を持つことは、哲学としての「考える力」を身に付けることを目的としている東洋大学らしい学びの姿となるでしょう。
松岡 まさに、しっかり考えられる人こそが、国際的に通用するのだと思います。静山社創立者の故・松岡幸雄氏の口ぐせだった「権威を疑え」は、私の座右の銘になっています。
大野 すばらしいですね。実は『グリム童話』とは、取るに足らない昔話を、些細でも小さくても価値はあると丹念に収集した、グリム兄弟の信念によって編まれたものなのです。過大評価も過小評価もせず、言い換えれば既成の固定観念にとらわれず真の価値を見つけようとする姿勢は、まさに「権威を疑え」という考え方そのものであり、国際的な場面での文化間コミュニケーションに必要とされる態度です。グローバル化する社会の荒波の中でもまれても、「流されない自分」というものを持った学生を育成していければと思います。
※2017年度開設予定(設置構想中)。学部・学科名は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。