与党議連「就活の"時期問題"は本質ではない」 自民党が考える「就職問題」の解決策とは

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また、「そもそも民間企業の経済活動の一環である採用活動に政治が介入することは望ましいことではない」とも明言しています。

産学官が一体となった取り組みが必要

3つ目は、履修履歴活用に直接関係するポイントです。

もともと就職・採用開始時期を設定し始めたのは、就職活動が始まると学生が授業に出なくなるという問題を解決するためでした。しかし、時期を設定するという手法は、前述したような「不公正・不透明な採用活動」という新たな課題を引き起こしてしまいます。

提言では、学生が授業に出ないことの本質的な原因は、学生にとっての学業の優先順位が、就活に比較して圧倒的に低いことだと指摘しています。議員連盟の聞き取りでは、体育会の学生が「練習や合宿などと就活が重なり、その両立が大変だった」と言っています。これは、両立させようと努力しているということです。

一方、授業においては、就活との両立を考えるのではなく、「授業に出ない」という選択がなされがちです。言い換えれば、授業への優先順位を部活レベルに引き上げることができれば、就活が始まっても、授業とどう両立するのかを考えるようになるのです。

提言では、産学官が一体となってこの本質的な問題を解決することが、もっとも本質的で重要な方法だと言っています。

そのためには当然、大学が授業の質を高めて、学生が授業に出るようにすることも重要です。また、企業が信頼できるような卒業の難しさや成績評価が重要であることも、論をまちません。ですが一方で、企業も採用活動において履修履歴を取得し、それを活用する努力が必要だと言及しています。

成績を参考にすることができない企業でも、履修履歴を面接で活用することは可能です。企業がリシュ面を始めることで、「採用選考では授業についても質問される」「いい授業を選択して、きちんと理解しておくほうが就活にもいい」という評判が学生間に広がれば、いい授業をし、評価をきちんとしようとする大学や教員の行動を後押しすることになります。

この議連の提言は極めてわかりやすく、納得できるものだと思います。履修履歴の活用が急激に広がり始めているのは、このようなことが背景にあるのです。

企業の採用に関わっておられるみなさんは、ぜひ履修履歴の活用に協力いただきたいと思います。各企業がリシュ面を始めていくことで、就職問題の解決だけでなく、大学教育のレベル向上につながるからです。

今までは、企業が採用活動に熱心になることで、大学教育を阻害していると言われがちでした。しかし、企業の皆さんがリシュ面を始めることで、大学教育が磨かれ、学生は学問に励み、企業は優秀な人材を採用できるという、正の循環を起こすことができるのです。

辻 太一朗 大学成績センター代表

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つじ たいちろう / Taichiro Tsuji

1959年生まれ。京都大学工学部卒業。リクルートで全国採用責任者として活躍後、1999年アイジャスト創業。2006年リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。2011年、NPO法人「大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会(略称DSS)」設立。2014年、大学成績センター設立。著書に『なぜ日本の大学生は、世界でいちばん勉強しないのか?』(東洋経済新報社)などがある。

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