東洋大学

アイデアを形にするプログラミングスキルが必須

東洋大学

東洋大学は、1887年に明治の哲学者・井上円了によって創立された約130年の歴史を持つ総合大学だ。哲学を建学の理念とする唯一の大学であり、近年では駅伝や水泳、陸上などの活躍からスポーツが盛んな大学というイメージも強い。一方で、2014年度には、我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学を重点支援する、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援 タイプB(グローバル化牽引型)」に採択され、2017年には新学部・学科の開設を構想するなど、グローバル人財育成の取り組みを加速している。そこで、ここでは 「世界で活躍できる人財の条件」と題し、グローバル社会で活躍するために必要な能力とは何か、どうしたら育てることができるのかを全12回の連載を通して明らかにしていく。
第3回は、日本のユビキタスコンピューティングの第一人者として知られ、2017年度に東洋大学で情報連携学部の設置を構想する坂村健氏(東京大学教授)にグローバル人材とICT教育との関わりを聞いた。
東洋大学 情報連携学部等設置推進委員会 委員長
坂村健
専攻はコンピュータ・アーキテクチャー(電脳建築学)。1984年からTRONプロジェクトのリーダーとして、まったく新しい概念によるコンピュータ体系を構築し世界の注目を集める。現在、TRONはユビキタスコンピューティング環境を実現する世界で最も使われている組み込みOSとなっている

―― 産業構造の変化を受けて、プログラミング教育の重要性を説かれています。

坂村 第二次産業革命後の社会は、機械化に重点が置かれていましたが、コンピューターの普及に伴って、その仕組みに変化が見られます。以前の自動車エンジンは、機械的に制御されていましたが、今はマイクロコンピューターで制御されています。この流れはエアコンなどの家電製品にも共通で、機器に組み込まれたコンピューターのプログラムが制御の核になっています。ただし、私が考えるプログラミング教育の狙いは、単に専門のプログラマーを増やすだけではなく、さまざまな分野の専門家がプログラミングもできるようにすることにあります。たとえば、ITで最適な栽培環境になるよう植物工場を管理する「スマートアグリ」を推進するオランダで、気温が何度を超えたら窓を開けるといった制御システムを作ったのは、プログラミングができる農業者でした。プログラムを書けることが社会を変えるアイデアを形にするための大きな力になったのです。

―― 世界では、情報ビジネスのベンチャーが成功を収める事例も増えています。

坂村 現代の情報ビジネスは、初期投資が少なくて済み、立ち上げのスピードも早く、一人からでも始められるのが特徴です。以前のように、工場の建設や多くの労働者を雇う必要がないためリスクも低く、アイデア次第では若いうちから成功することもできることから、最も早くイノベーションを起こせるビジネスだともいわれています。

―― プログラミング教育により、どんな効果が期待できるのでしょうか。

坂村 イスラエルでは、1995年にジュディス・ガル=エゼル教授が、中等教育でのコンピューター教育は、使い方よりも原理やプログラミングを教えるべきとの内容の論文を発表したことを契機に、2000年に世界で初めて高校でのプログラミング教育が義務化されました。一般に、教育の効果は長期的に見る必要があるのですが、このプログラミング教育の効果はわずか数年で出始めました。この数年、イスラエルでは米大手IT企業に巨額買収されたり、米NASDAQに上場したりするITベンチャーが次々と現われています。そこで、イスラエルに追随しようと、英国は2014年から5~16歳を対象にプログラミング教育を開始。米国でも1万の高校に1万人のコンピュータサイエンスの教師を配置する「CS10K運動」が始まるなど、欧米では初中等教育段階からプログラミング教育を義務化、必修化する動きが活発になっています。

―― プログラミング教育に関する日本の現状はどうなっていますか。

坂村 日本の義務教育でも情報教育は行われていますが、主要なコンピューターソフトの使い方やリテラシーが中心で、世界の動向からは遅れを取っています。プログラミングは、若年期に教育を受けていれば基本的なスキルを身に付けることができ、人によって向き不向きはあるものの、決して特殊なものではありません。プログラミングは、数学や国語と同様に、これからの社会を生き抜く上で身に付けておけば、どの分野においても活用することができる必須のスキルです。文部科学省は、プログラミングを取り入れた学習指導要領を改定、実施に移すまでに10年近くはかかると説明しており、このままでは日本が、イノベーションを起こすための重要な基礎スキルであるプログラミングにおいて、世界から大きく遅れをとってしまうのではないかと懸念しています。

―― グローバル化する社会を生き抜くには何が必要でしょう。

坂村 今や伝統工芸などの分野も含めてコンピューターやネットワークの影響を受けない産業はありません。今後の社会経済は、コンピューターを利用したイノベーションがカギを握るでしょう。そこでは、プログラミングを活用してさまざまな分野の専門性を連携させるスキルが大きな強みになると思います。そこで必要となるのが「情報連携」という考え方です。

―― 2017年度設置構想中の情報連携学部では、どんな教育を展開しようと考えていますか。

坂村 情報連携学部はエンジニアリング、デザイン、ビジネス、シビルシステムの専門知識・スキルを養う4つのコースで構成される文理融合の学部ですが、プログラミングは全コース共通の必修科目として、1年次からしっかり学ぶ機会を設けます。これまでは、大学のコンピューター系学部で学ぶ内容はハードウエアに偏りがちでしたが、新学部では、プログラミングを含めてコンピューターを駆使できる各種専門人材を育成することを目指します。さらに、多様性に富んだ学生たちの連携を促進するために、英語やプレゼンテーションテクニックなどのコミュニケーション力も鍛えます。

また、新学部が設置される予定の赤羽台キャンパス(東京・北区)には、最新のICT環境に加え、多用途の小規模教室など、連携のコンセプトを実践するチーム学習のための施設を整備します。教員は、主にプログラミングに堪能な各領域の専門家たちを集めるとともに、教授法も一方通行的な学習内容は事前学習として学生が視聴する動画に任せ、授業はディスカッションや実習を中心とする反転授業などを積極的に取り入れる計画です。また、動画や資料などのオンラインコンテンツを充実させ、忙しい社会人学生も、無理なく学べる仕組みを設けます。

―― どのような人材を輩出したいとお考えでしょうか。

坂村 イノベーションに対して王道はなく、これをやれば成功するということはありませんが、チャレンジした回数が多ければそれだけチャンスは広がります。そして、一人ではできないことも、他と連携すれば素早く実現でき、チャレンジ回数を増やせます。新学部での教育により、プログラミングという強みに裏付けられたシステムを連携させるスキルや、多様な人々と連携するコミュニケーションスキルを兼ね備えた人材を育成し、これからの人間社会の中で貢献し、世界のどこにいようとも生きがいと強い意志を持って活躍することができる人材を輩出していきたいと考えています。

※2017年度開設予定(設置構想中)。学部・学科名は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。

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