テレビ旅番組の威力、放送直後に予約が殺到、視聴者は「お得」に敏感《特集・日本人の旅》

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テレビ旅番組の威力、放送直後に予約が殺到、視聴者は「お得」に敏感《特集・日本人の旅》

(写真:(C)テレビ東京)

タレントがローカルバスを乗り継ぎ、地元の人と触れ合いながら、旅館で温泉につかり鍋をつつく--。普段何げなく見ている「旅番組」だが、実はその影響力は計り知れない。

今年1月半ば、テレビ東京「土曜スペシャル」(土曜日19時放送)で「冬におトクな直行バスで行く温泉宿」と銘打った特集を放送したところ、直後に視聴者から電話が殺到した。「番組内で紹介したホテルや旅館も問い合わせでパンク寸前だった」と、同番組と「いい旅夢気分」(水曜日20時放送)のプロデューサーを兼ねる田中智子氏は驚きを隠さない。

「土スペ」「いい旅」とも1986年放送開始の“長寿番組”だが、中高年の視聴者を中心に人気が高い。「景気が悪いから旅をしないというわけではなく、不況時には『おカネを使わない娯楽』など、つねに時代に見合った旅のニーズがあり、旅番組の需要は高い」(編成局編成部の高田健太郎氏)。どんな時代でも安定した視聴率を稼げる旅番組は、テレビ局にとっても頼もしい存在、というわけだ。

最近のキーワードは「格安」と「お得情報」。特に年明け以降は視聴者の反応も顕著で、たとえば「格安パックツアー」や「5000円台で泊まれる宿」「素泊まり」といった内容だと視聴率がハネ上がる。一方で、「ローカル線の旅」といった視聴者が疑似体験できるような「乗り物系」も、依然として根強い人気という。

さぞかし旅館や温泉地から引き合いも旺盛なのかと思いきや「県によってはホテルを借りてイベントを開いたり、観光課の人が訪ねて来たりもするがそれも決まったところだけ。景気が低迷してからもそこは変わらない。特段激しい誘致があるわけでもないので、それに左右されて番組内容を決めることはない」(田中氏)。それよりは、視聴者のニーズや季節を考えながら、取り上げる地域や旅館など「ネタ」を決める。「食事や宿の質は料金と見合っているか」「サービスや経営者に特徴はあるか」……。一つひとつスタッフが吟味して最終候補を絞る。

ただ、最近は景気低迷で旅館側の対応も少なからず変わってきたと感じることもあるという。「かつてはお風呂の撮影はダメ、とか、取材拒否だったようなところも、取材対応してくれるようになってきた」(田中氏)。

群馬県・四万温泉はメディアの力を実感している。同地区では定期的に旅行関連業界の担当記者などを集め、物産展なども兼ねて広報活動を展開。テレビ局から相談があった場合も、名物旅館の取材など素早く設定する。

こうした地道な広報活動が実を結んで、雑誌の特集や、旅番組、ドラマの舞台などで登場するケースも少なくない。過去に「直行バスで行く温泉宿」で取り上げられた旅館には、2000件もの予約が入ったこともあるという。「協会ではマスコミ対策費として年間50万~60万円ほど使う。広告を出すよりも、旅番組などで取り上げてもらったほうがずっと効果が大きい」と、元四万温泉観光協会事務局長で群馬県観光国際協会の宮崎信雄氏も胸を張る。

景気が冷え込む中、旅番組の威力は一段と強まることは間違いない。

(週刊東洋経済)

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