「死にいたる事も」意外と知らない歯周病の"怖さ" なぜ歯周病菌は普通の歯磨きでは死なないのか

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嫌気性とは読んで字のごとく、空気が嫌いな性質のこと。そのため、歯周病菌は、空気に触れている間はそれほど繁殖しません。

しかし、空気が入る隙間がないほど菌で密集しているプラーク内は、歯周病菌の嫌いな空気がグッと少なくなります。こうして安住の地を手に入れた歯周病菌は安心して繁殖し始めますが、口内にはさらに空気が入りづらい場所があります。

それが歯と歯茎の間にある2ミリほどの隙間、歯肉溝(しにくこう)です。ここにプラークが入り込むと、より空気は少なくなります。

歯周病菌はタンパク質が分解されたアミノ酸をエサにしていますが、歯肉溝には「歯肉溝浸出(しんしゅつ)液」というものが浸み出ていて、そこにアミノ酸が含まれているため、エサにも困らないのです。

こうして、最高の住処とエサ場にたどり着いた歯周病菌は、どんどん繁殖し、歯肉溝内を制圧していきます。この段階で歯茎は腫れ、歯肉溝が大きく広がり、歯周ポケットと呼ばれるようになり、歯肉炎と診断されます。

しかし、ここで終わらないのが歯周病菌の恐ろしいところ。

ここから、本格的に人体と歯周病菌の戦いの火ぶたが切って落とされ、さまざまな害へとつながっていくのです。

人体と歯周病菌の戦い

人体には、異物と戦うための免疫機能が存在します。さまざまな外敵を倒すための抗体、体の温度を上げ外敵を殺す発熱など、数々の体を守る仕組みによって、我々の健康は維持されています。

「炎症」。誰もがこの言葉を聞いたことがあるでしょう。言葉だけ聞くと悪いことのように思えますが、これは代表的な免疫反応の1つで、外敵が侵入してきた箇所や傷ついた箇所に血液を集めることで、免疫細胞を送り込み、戦いを有利に進めていきます。

歯茎で起こる戦いでも、当然この炎症反応が起こります。

軽い歯肉炎であれば、通常の免疫反応で治癒していくので心配ありません。しかし、ここに、食生活の乱れ、ストレス、加齢が加わることによって、歯周病が優位に立ってしまい、皆さんの体はどんどんむしばまれていきます。

歯茎が腫れ、歯肉溝は歯周ポケットとなり、どんどんポケットが広がっていく。こうして、歯周病は進行していくのです。

歯周病の初期、中期だと、むずかゆいなど些細な違和感が出る程度で、自覚症状はありません。そのため、多くの人が知らぬ間に歯周病を進行させてしまうのです。

自覚なく進行を進めることから、歯周病には「静かなる殺し屋(サイレントキラー)」という異名が付けられているのですが、もう1つ、歯周病には困った特色があります。それは、歯周病を生み出す歯周病菌が、他の菌と比べると、段違いの強さを持っているということ。

歯周病菌の強さ。その秘密は、身に付けている強力な武器にあります。

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