いなば食品、大炎上でも「不買運動」が起きぬ理由 キリンはあれだけ盛り上がったが…どこに違いが?

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不買運動が企業に与えるダメージは、抗議による不買での「直接的な売上減」にとどまらず、企業イメージの低下による「間接的な売上減」も招くことにある。SNSによって不買運動が可視化されれば、メディア側もこぞって記事として取り上げる。

企業側の声明を待たずとも、抗議の声がでていれば、それだけでニュースバリューはあるため記事化に値する。また、公式コメントが出されれば、それもまた記事にできる。著名人が反応すれば、そちらも——。

いなば食品のリリース
当初の内容から書き換えられたいなば食品のプレスリリース(4月15日11時時点)。このように、何かしらの動きがあると、記事にもなる(出所:同社の公式ホームページより)

そもそも「抗議」のように感情へ訴える、衝動的な事案は、読者の興味を引きやすい。そのうえ「何番煎じ」でも味わえると来れば、媒体側が重宝する理由もわかるはずだ。こうしたループを繰り返すうちに、火に油が注がれ、ネット空間は焼け野原となってしまうのが世の常だ。

いなば食品では不買運動が起きない3つの理由

しかしながら、今回のいなば食品では、不買運動が盛り上がっていない。その背景には、3つの理由があると筆者は考えている。

(1)従業員の待遇が争点となっているため
(2)「CIAOちゅ〜る」が唯一無二な商品であるため
(3)「CIAOちゅ〜る」が子会社の商品であるため

それぞれ見ていこう。最初の理由としては、今回の報道が、従業員の待遇をめぐるものだということが考えられる。新入社員をはじめとする従業員に、十分な配慮がされるためには、そこへ資金が投入される必要がある。

文春報道では「募集要項からの給与ダウン」もスクープされており、不買運動により売上減につながれば、現場社員がさらに苦しくなるのではと、不買運動をためらっている可能性は考えられる。

2つめは、主力商品であるキャットフード「CIAO(チャオ)ちゅ〜る」が唯一無二であること。SNSでは「ネコからの反発が強そう」「類似商品だと拒否される」といった反応も多々見られ、もはや嗜好品にとどまらず、生活必需品になっていると思われる。

企業イメージがどうであれ、替えのきかない存在。そして人間と違って、ネコには「理由」を知ってもらうすべがない。こうした背景もあって、購入を継続する愛猫家は多いのだろう。

不買運動は、基本的に「替えがきくライバル商品があること」を前提として成り立つ。先の「氷結」の例で言えば、味は多少異なるが、たとえばサントリーの「-196℃」や「こだわり酒場」といった競合商品があることから、いざとなれば消費者はそこへ乗り換えられる。こうした危機感が企業への抑止力となるため、不買運動は一定の効果を示す。

その点で言えば、いなばの「ライトツナ」から、はごろもフーズの「シーチキン」に乗り換えるという流れは考えられる。ただ、メーカー名で選ばれていないのか、はたまた一時期ほど広告展開されていないからか、そこまでの動きにはなっていないようだ。

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