消える「街場のすし屋」営業継続が難しい深刻理由 一等地の高級店やチェーン店にない魅力はあるが

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ちなみに、豊さんには2人の息子がいるが、「後を継ぐとも継がないとも何も言っていない」という。

すし業界も含めた「職人」の後継者不足を受けて、新しいサービスも登場し始めている。3月15日にスタートした「デシツグ」という求人サイトは、「弟子や、アシスタント募集など『師事』に特化した」情報を扱う。

これまでの社員募集サイトとは異なり、伝統技術の継承や事業承継を視野に入れた情報発信を行うことを目的としているという。同サイトを運営するKurumi株式会社の代表取締役・銀屋サトシ氏はこう語る。

「弊社は企業のホームページなどの制作会社として創業しましたが、依頼先から『後継者不足で悩んでいる』と切実な悩みをうかがうことが多く、『デシツグ』のリリースにつながりました。

一般的な求人サイトは給与や休日といった条件面が最優先に表示され、雇用側の思いをきちんと伝えられていませんでした。『デシツグ』は雇用側の思いをインタビューで掲載していますので、たとえば『修行は7年必要ですが、すし職人として独立できます』などの本質を伝えることができます。

お問い合わせやアクセス数も現在順調に伸びていますので、後継者不足解消の選択肢として一役担えるのでは、と実感しております」

庶民が大切にしてきた“文化”

改めて、名登利寿司の芳枝さんに街場のすし屋の魅力を聞いてみた。

「常連になれば、大将や女将さんと楽しく会話ができるということは、よく知られていると思います。高級店では、なかなかそうはいきません。

ただ、常連になると『味』の面でもメリットがあることは、知らない人も多いのではないでしょうか。

二代目の息子は常連さんから予約が入ると、『あのお客さんは、これがお好きだ』と仕入れの段階で準備します。街場のすし屋は“お客さんの顔が見える商売”をしており、それが魅力です。

全国で1軒でも多く、これからも営業が続けられることを心から祈っています」

庶民が大切にしてきた“文化”としても、待場のすし屋が減ってしまうことは大きな損失だろう。

(ライター・井荻稔)

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