いなば食品「仰天リリース」意外と逃げ切れる背景 ただし、売上への影響小でも「恐れるべきこと」

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では、いなば食品はこのまま逃げ切れるのか? といえば、それはそう簡単ではありません。いま日本中の企業、特に製造業を直撃している人手不足問題があります。

昨今の学生は企業研究においてネット情報を重視します。過去に起きたさまざまな企業スキャンダルやトラブルは、デジタルタトゥーとして長く残る可能性が高く、今回のような採用に関するトラブルはかなりのインパクトを与えるリスクがあるでしょう。

特に「新卒者への扱いがひどい」という今回のニュースは、就活学生がもっとも重視するネガティブ情報です。今どきの学生がまず最初に気にする「社風」に関する情報として、今回の文春報道のようなわかりやすいダメな例はなかなか類を見ません。この報道やリリースを読んでも大丈夫という強い信念のある学生ならよいのかもしれませんが、そんな学生がどれだけいるのかは不明です。

私は採用支援のコンサルティングで、「面接官教育」にも力を入れています。採用促進において、今どきの学生の好みを読んで情報提供をしないと、特に知名度の劣るB2B企業の場合、採用は困難を極める恐れがあると指摘してきました。

一番恐れるべきリスク

また、今回いなば食品は採用において「労働条件通知書」を出していないとも報道されています。労基法によって、労働条件通知書においては必須記載情報があります。それは労働契約期間、更新基準、就業場所、就業時間、賃金・昇給など、法律で文書として発行が義務付けられているものです。

しかし実際には労働条件通知書を発行せず、口約束や面接時の口頭説明のみしかしていない企業の話を学生から聞くことがあります。いなば食品ほどの大企業でも通知書発行をしていなかったとすれば、コンプライアンスに重大な疑義となり、就活学生に忌避される可能性は十二分にあるでしょう。

他にも報道された出社時間前に掃除や着替えを強制するサービス残業、許可制の有給休暇や研修への強制参加、社内宴会での無給拘束、ボランティア強制など、さまざまな違法行為が事実だとすれば、新卒学生は大いに警戒するでしょう。もし事実に反することが報道されている場合は、ただちに否定・釈明を発表するべきです。

世間、特に採用したい学生から自社がどう見えているのか、この事件はすべての企業にとって他山の石となる事例だと思います。

増沢 隆太 東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家

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ますざわ りゅうた / Ryuta Masuzawa

東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」として数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。

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