グローバル化が進むと「封建的な世界」になる理由 ナショナリズムこそリベラルな社会の前提条件

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:それが一番の根本的な処方箋ですが、もう少し身近な第一歩としては、「グローバル化」と「国際化」という概念をしっかり区別することです。そもそも「グローバル化」は、国境の垣根を下げて、ルールや制度、慣習、文化などを共通化しようとする考え方であるのに対して、「国際化」は、国境や国籍を維持し、互いのルールや慣習などの違いを尊重しつつも、積極的に交流していく考え方で、根本的に異なります(以下の記事を参照。〈年頭にあたり「グローバル化」「国際化」区別を〉〈「グローバル化」と「国際化」の区別を〉)。

しかし、日本ではこの2つが一緒くたにされることが多い。たとえば菅政権の経済ブレーンだったデービッド・アトキンソン氏は、反グローバリズムの意見に対して、X上でこう答えたんですね。「反グローバリズムを言うなら、ビール、電気、洋食、洋間、自動車、テレビ、パソコン、地下鉄、電車、民主主義、ベッド、飛行機、西洋医学等々を使うな!すべてグローバリズムの結果。軽率な発言を控えなさい」と。

これは典型的な意見ではありますが、グローバル化批判をすると、「排外主義の鎖国主義だ、極右だ」みたいなことを言う人が多いんですね。なので、まずは「グローバル化」と「国際化」の概念を明確に区別することで、グローバル化批判がしにくい現状を変える必要があると思います。

「グローバル化」と「国際化」の違い

古川:「グローバル化」と「国際化」は全然違うということは、私も大学の授業でよく話しています。

古川 雄嗣(ふるかわ ゆうじ)/教育学者、北海道教育大学旭川校准教授。1978年、三重県生まれ。京都大学文学部および教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。専門は、教育哲学、道徳教育。著書に『偶然と運命――九鬼周造の倫理学』(ナカニシヤ出版、2015年)、『大人の道徳:西洋近代思想を問い直す』(東洋経済新報社、2018年)、共編著に『反「大学改革」論――若手からの問題提起』(ナカニシヤ出版、2017年)がある(写真:古川雄嗣)

言葉の意味を考えてごらんなさい、と。「国際」というのは「国の交際」なのだから、まず国が前提になっている。それぞれに独立した国がまずあって、その国同士が交際して関係を築いていくのが「国際」。英語で言えばinter-nationalismで、やはりまずナショナリズムに基づく独立したネイションがあって、それが相互に関係するのがインター・ナショナリズムです。

それに対して、グローバリズムというのは、「世界は一つ」「地球は一つ」と考えるわけですから、インター・ナショナリズムが前提にしている国家やナショナリズムを否定します。

「ね? だから正反対でしょ?」と説明すると、誰だって理解しますよ。たぶん中学生でもわかることでしょう。それなのに、わが国の学者や政治家が両者を同一視しているのは、本当に不思議です。これはいったい、どうしてなんでしょうか?

:それでいうと、興味深いアンケート結果があります。結論から言うと、実は一般の方のほうが「グローバル化」と「国際化」の違いを認識していて、「国際化」のほうを好んでいるのではないかという結果です。

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