グローバル化が進むと「封建的な世界」になる理由 ナショナリズムこそリベラルな社会の前提条件

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:日本は、ある意味、新自由主義に基づくグローバル化という目標を生真面目に受け止め、追求してきました。グローバル化を目指す構造改革を一生懸命やった結果、庶民層が貧しくなり、分厚い中間層と言われたものも没落し、結果的にGDPも伸びなくなったのではないかと思うんです。

資本の国際的移動に対する一定の規制を

:日本のグローバル化路線は1996~1997年の金融制度改革あたりから本格的に始まりました。国境を越える資本の移動を、次第に自由化し、活発化させていきます。そうすると必然的に、グローバルな投資家や企業といった、国境を越えて資本を動かせる人々の力がどうしても強くなってしまう。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授。1971年、福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

なぜかと言えば、たとえば「法人税を引き下げないと、もうあんたの国には投資しないよ」とか、「人件費を下げられるように非正規労働者を増やさないと、生産拠点をこの国から移すぞ」と政府に圧力をかけられるので、彼らの声を聞かざるをえなくなってしまうんですね。

加えて、グローバルな投資家や企業からすれば、労働組合は非常に面倒くさい抵抗勢力なので、資本が国境を越えて移動できるようになったことは好都合です。労働組合の力はほとんど失われるからです。たとえば労働組合が団体交渉をしようとしたら、企業側から「うるさいこと言うんだったら、外国人労働者や移民を使うよ」とか「事業を海外に移すよ」と言われるようになり、労働組合は事実上機能しなくなってしまった。

そして、少子化の問題に関しても、グローバル化の影響をもろに受けているのではないかと政府も最近は認識し始めています。結局、経済政策が国民生活を二の次にした結果、若い世代は経済的に安定せず、結婚や子どもを持つことを躊躇してしまう。特に日本は、社会通念上、若い男性にきちんとした稼ぎがないと、結婚して子どもを作ろうというふうにならない傾向にあります。だけど、財界団体なんかは、「少子化は避けられない運命だ」と宿命論的に言って、それを理由にますますグローバル化を進めようとする。

以上の問題に対する改善策としては、当然ながら、新自由主義に基づくグローバル化路線を改める必要があります。具体的には、資本の国際的移動に対する一定の規制を認めるような国際経済秩序をつくることです。グローバル化以前の、つまり1980年代以前の国際経済秩序のように、関税など、資本の国際的移動に対し各国が一定の規制を加えることは正当だと認識されうるような国際経済秩序です。ただ、これはもちろん一国だけでは無理で、国際協調のもとで国際経済秩序を根本から変えていく必要があります。

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