ディズニー「ファストパス」導入が永遠に変えた事 アトラクションは「早い者勝ち」だったはずが

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ディズニーにはごく最近まで待ち時間短縮方法が何通りか用意されていた。中でも悪名高かったのが、身体障害者用パスである。入園時にこのパスをもらうと、身体障害者1人につき最大6人までのグループが優先搭乗できる。

だが甚だ遺憾なことに、身体障害者が自身を1時間130ドル程度で貸し出し、健常者のファミリーが付き添い人として行列をスキップできるようにしていることが判明する。プライベートVIPツアーと比べたら、このほうがはるかに安上がりだ。  

車椅子をレンタルしてきて身体障害者のふりをする悪質な連中もいた。あるゲストはこんなことを言っている。「ブラックマーケットで身体障害者を雇えば行列を全部飛ばせるのに、誰がVIPツアーに大金を出すもんか」。

身体障害者を雇ったというあるニューヨークから来た富裕層のママは罪の意識などかけらもなく、「これが1%(の超富裕層)のやり方よ」とさも当然のように話した。  

VIPツアーには結局「社会的価値」がある

こうした事態を憂慮したディズニーは、身体障害者用パスを廃止する。「たいへん遺憾なことに、一部の利用者が障害者を雇い、障害を持つ方への私どもの配慮を悪用していることがわかったため」だと述べている。1%が行列をスキップしたいなら、その1%に払わせたいというのがディズニーの考えだ。  

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読者が周囲を注意深く見回してみたら、早い者勝ちのルールがそこここで崩れていることを発見するだろう。だが心配する必要はないかもしれない。

結局のところ、ファストパス+は一般ゲストのイライラ解消に役立っている。プライベートVIPツアーでさえ、それなりに社会的価値がある。すくなくともディズニーの株主にとってはそう言える。

マイケル・ヘラー コロンビア大学教授

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Michael Heller

コロンビア大学ロースクールのローレンス・A・ウィーン不動産法担当教授。所有権に関する世界的権威の1人。著書に『グリッドロック経済』。

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