倒産急増「日本のパン屋」が抱える特殊な問題 消費者にとっては嬉しいが、店にとっては負担

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ここに、パン屋倒産が相次ぐもう1つの理由が見える。老舗にせよ、新規出店にせよ、町に愛される努力をし続けない個人店は定着が難しい。商品の質はもちろん、ハード・ソフトのどちらかあるいは両方の問題で店の雰囲気が悪くても、客離れは起こりやすい。

客離れを恐れ、コストの上昇を価格転嫁できない店も多いと思われるが、それでは持続可能な商売にならない。例えば店頭に張り紙をして説明するなど、価格上昇を認めてもらう努力はしているだろうか。ふだんから客とコミュニケーションをしていてファンが多い店なら、コストに見合った販売価格のアップはできるはずだ。

パン屋も「変化」を求められている

こうして分析してみると、パン屋の倒産ラッシュは、変化に対応できない店が淘汰されている現象と言えなくもない。総務省家計調査による2人以上世帯のパンの消費金額自体は、2010年以降上昇傾向にあり、パン自体の人気は今もあるからだ。

消費者の目は厳しいが、インフレが必要な時代になったことも理解されてきている。インフレは、消費者であると同時に働く人でもある皆が、必要としているからだ。

時代に合った質と価格を提供すべく、パン屋も発想の転換を求められている。そして、消費者である私たちも、価格上昇を受け入れなければならないだろう。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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