「インドカレー屋」実はネパール人運営が多い理由 産業が育たず、貧困で世界有数の「出稼ぎ国家」に

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こうして徐々にインネパは増え、その中から日本人の好みに合うようなメニューが徐々に形成されていった。『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』では、そのルーツを紐解きつつ、インネパがインド料理ともネパール料理とも違う、日本に適応した独自の味に変化したことが詳細に書かれている。

室橋裕和さんの写真
『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』を上梓した室橋裕和さん(編集部撮影)

さらに、この20年ほどの激増の大きな要因になったのがブローカーの存在だ。

「制度が変わり、外国人でも500万円を投資すれば『経営・管理』という在留資格(ビザ)を持って会社を経営できるようになったんです。

最初のうちは親族からそのお金を集めていたのですが、これでコックから社長になるネパール人が増えました。すると今度は自分の代わりのコックが必要になる。だからコック経験のある親族を呼んで調理の分野で『技能』の在留資格を取らせて働いてもらう。で、このコックがまた経験を積んでお金が貯まると『経営・管理』を取って独立していく……。

このプロセスが大流行する中で、ブローカーも出てきました。日本で働きたい人たちからお金を取って、『500万円』が必要な人とつなぐ。中には調理の経験がないのにブローカーにお金を払って日本に来て、カレーを作るような人も増えたんです。そういう人も仕事を覚えお金を貯めて独立していくし、ブローカーそのものを生業とするコックも増えていきました」

インネパを生み出したネパールの貧困

しかし、どうしてネパール人は海外に働きに出ようとするのか。それには、ネパールの国内事情が影響している。

「政治的な混乱もありましたし、何より主要な産業が何もない。山がちな地形だから農業には向いていないですし、内陸国だから貿易も盛んではない。ヒマラヤのトレッキングは素晴らしいですが、そうした観光業は国を支えるだけの巨大なものにはならない。この国にいてはダメだ、という思いを持つ人が多く、海外に行くことそのものが夢になっているんです」

実際、1人あたりの年間所得は1337ドル程度(約20万円。世界銀行による。2022年)で、日本の平均給与である457万円を大きく下回る(ネパールの平均給与は「Average Salary Survey」、日本の平均給与は「令和4年分 民間給与実態統計調査」より)。

そもそもネパールは、民主政になったのが2008年5月とごく最近だ。さまざまな背景があり、産業が育ってこなかった国なのだ。

『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』の中で室橋さんは、インネパを経営する多くの人の出身地であるバグルンに赴いている。

「そこは、日本人の目からすると遥かに豊かに見えるんです。自分の庭で食べるものはまかなえるし、飼っている牛からヨーグルトを作ったりもしている。ヒマラヤの麓に本当に美しい景色が広がっている場所でした。

次ページ実際のバグルンの様子
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