[Book Review 今週のラインナップ]
・『WEIRD(ウィアード) 「現代人」の奇妙な心理 経済的繁栄、民主制、個人主義の起源(上下)』
・『民主主義の人類史 何が独裁と民主を分けるのか?』
・『勝敗の構造 第二次大戦を決した用兵思想の激突』
・『歴史文化ライブラリー582 温泉旅行の近現代』
評者・大阪大学教授 安田洋祐
今から千年前、世界の中心は中国とイスラム世界だった。当時、北方の野蛮人にすぎなかった欧州の集団は、いかにして経済的繁栄を成し遂げ地球を支配したのか。本書によると、謎を解くカギは「イトコ婚」にある(!)。
西洋の台頭をもたらしたのは「緊密な親族関係」からの解放だ
ヒトはもともとほかの霊長類と同様、血縁や婚姻関係に根差した小規模の集団で暮らしてきた。イトコ婚(本書では従兄弟・従姉妹以外の親族婚も含む)が多い地域の人々は集団内の関係を重視することが知られている。他方、見知らぬ他人に対して不信感を抱きやすく、市場の発展に必要な向社会性をほとんど持たない。この緊密な親族関係からの解放が、西洋の台頭をもたらしたのだと本書は説く。
きっかけとなったのは、一夫一婦制やイトコ婚禁止を定めたローマ・カトリック教会の規範だ。伝統的な親族関係を弱めることで権力を拡大した教会は、結婚と家族に関する制約を次第に強化。そして、親族関係の崩壊によって生じた社会面・心理面での変化が都市化への扉を開き、市場を拡大し、イノベーションの源泉となるギルドや大学の結成を促したのだ。
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