縄文人と弥生人で分けられない「日本人のルーツ」 祖先はいつ、どうやって日本列島へやってきた?

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沖縄の旧石器人は滅んでしまった可能性も?

沖縄本島で発見された約2万年前の人骨「港川1号」は、次世代シークエンサを用いたミトコンドリアDNAの解析も行われています。この人物は現代人につながらずに消滅した系統であると考えられています。

実は、琉球列島集団の現代人を対象とした大規模なゲノム解析によって、沖縄の現代人の祖先は1万5000年前より昔にさかのぼらないという結論が導かれています。

この結果は、港川人のミトコンドリア系統が現代人につながらないとする解釈と整合性があります。

縄文人の地域差が意味するものとは?

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形態的には比較的均一だったと考えられている縄文人ですが、ミトコンドリアDNAの系統では、明瞭な東西の地域差が認められています。旧石器時代の日本列島には、進入ルートが異なるさまざまな集団が入ってきたと考えられます。

さまざまな地域から入ってきた集団

縄文人のミトコンドリアDNAの代表的なハプログループは、M7aとN9bです。西日本から琉球列島に多くなるM7aは、おそらく中国大陸の南部沿岸地域から西日本に進入したとされています。

一方、東日本から北海道の地域で多数を占めるN9bは、九州にも特殊なN9b系統が存在。そのため、N9b系統の祖先は朝鮮半島から沿海州の広い地域に散在し、それぞれ北海道経由のルートと、朝鮮半島経由のルートで日本列島に到達したと考えられます。

現代日本人に占めるそれぞれの割合は、M7aが約7.7%でN9bが約2.1%。この割合は、その後の弥生人との混合の状況に関連があると考えられます。

人類の起源
(『図解版 人類の起源』より/絵:代々木アニメーション学院)
篠田 謙一 国立科学博物館長

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しのだ けんいち / Kenichi Shinoda

1955年生まれ。京都大学理学部卒業。博士(医学)。佐賀医科大学助教授を経て、現在、国立科学博物館長。専門は分子人類学。本書の親本にあたる『人類の起源』(中公新書)は新書大賞2023第2位となったベストセラー。他の著書に『DNAで語る日本人起源論』『江戸の骨は語る――甦った宣教師シドッチのDNA』(ともに岩波書店)、『新版 日本人になった祖先たち――DNAが解明する多元的構造』(NHK出版)、編著に『化石とゲノムで探る――人類の起源と拡散』(日経サイエンス社)などがある。

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