つまり「1ホテル、1イノベーション」は、ホテルの核ともいえるリピーター戦略なのだ。
これらのイノベーションのアイデアは、さきほどの「おやすみスイッチ(GOOD NIGHT スイッチ)」同様、元谷氏自身が全国のアパや他ホテルに泊まり、ユーザー目線で得た気づきを基にしている。具体的な改良方法についても、メーカーや他業種の担当者と元谷氏が毎回協議するそうだ。
ハード面の改良や開発には、少なくとも半年~1年かかる。しかも、建てるたびに改良点がみつかるそうで、永遠に「これでいい」と納得することはないという。
そんな元谷氏は、グループ会長の元谷外志雄氏の長男だ。新卒で銀行に就職、28歳で家業のアパに戻った。そこから現場のリアルを知るために、FCも含めた全チェーンを宿泊して回りはじめたという。そしてついに、2024年2月に訪れた石垣島のFCで、全チェーンを網羅した。実に24年越しのホテル行脚。その歳月に、並々ならぬ思いが感じられる。
「Much Better」ではなく「Even Better」
ちなみに元谷氏のアイデアの源はホテルだけにとどまらず、他業界の成功事例を採用する場合もある。ソフト面でいえば、航空業界の事前決済後、ゲスト自身が客席を選べるシステムも応用した。事前決済をすると客室を選ぶことができる、「アパオートアサインシステム」だ。
ラッキーナンバー思考のゲストや、足が悪く、エレベーター近くの客室を選びたいゲストなどに喜ばれているそうで、スタッフ側からも、手がかかるアサイン業務の負担が減ったと歓迎されている。
莫大な費用がかかり続ける「1ホテル、1イノベーション」。改めて元谷氏に理由を聞くと、こんな答えが返ってきた。「弊社のスローガンは『Even Better! APA HOTEL(良いものをさらにより良く)』です。『Much Better(あまり良くないものを良くする)』ではありません。アパホテルはいわばラボ。リピーターのご満足のために、“次はこんなことができないか”と実験を続ける場だと思っています」。
ホテルを“実験の場”と捉える……。少し、アパの経営哲学の一端が見えてきた。第6回では、業界トップチェーンだからこその、4つの「ありえない数値」から解き明かしていく。
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