危機を迎えるたびに「より強くなる」100年企業 元中小企業庁長官が語る「老舗の耐久力」

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――美意識ですか。

美は自己肯定感の塊。美しいと感じる仕事をしていて鬱病になる人はいない。100年企業が世界で群を抜いて多い日本には、労働の美、経営の美、自然の美があふれている。この点も、多くの日本人は気づけていない。

フランスの社会人類学者レヴィ=ストロースは1977年に来日した際、多数の伝統工芸職人と会い、西洋との労働観の違いに気づいた。

西洋では、労働とは神との接触を失ったために生じた一種の「罰」とされているが、日本では伝統的技術が宗教的感情を所持し、労働を通じて神との接触が成り立ち、維持され続けている。「はたらく」ということは、西洋式の、生命のない物質への人間のはたらきかけではなく、人間と自然のあいだにある親密な関係の具体化だと。

経営の美もある。創業1400年以上を誇る金剛組が行う社寺建築の様式は、時々の時代背景で変化を見せながらも軒の反りや曲線、彫刻などの基礎となる伝統美は変わっていない。その普遍性こそが1000年を超える長寿企業の秘訣と言える。

マルローが語った「式年遷宮」

自然の美でいえば、フランスの作家アンドレ・マルローは1974年、伊勢神宮への参拝で式年遷宮を知り、こういう言葉を残している。

「伊勢神宮は過去を持たない。20年ごとに建てなおすゆえに。かつまた、それは現在でもない。いやしくも1500年このかた前身を模しつづけてきたゆえに。仏寺においては、日本は、自らの過去を愛する。が、神道はその覇者なのだ。人の手によって制覇された永遠であり、火災を免れずとも、時の奥底から来たり、人の運命と同じく必滅ながら、往年の日本と同じく不滅なのだ」

永遠なるものの存在を否定し、何度でも同じものを再生するという考え方は日本美の本質だろう。

――外から見ると、日本人が気づけていない価値が数多く存在するということですね。

日本のメディアはあまり報じなかったが、2023年11月、日本は「国家ブランド指数」で初めて首位となった。

国家ブランド指数とは、国家イメージ戦略の世界的権威サイモン・アンホルト氏(イーストアングリア大学政治学名誉教授)が考案し、世界最大級の市場調査会社イプソスが共同で実施する調査。2023年度は世界60ヶ国を6カテゴリー(「輸出」「ガバナンス」「文化」「人材」「観光」「移住と投資」)で測定した。

日本は6年連続トップだったドイツを抜いて首位に立った。こういうランキングもあるのだ。なかでもパーソナリティ特性別ランキングは面白い。

幸せ 1位 ニュージーランド 2位 スペイン 3位 アイルランド
 創造的 1位 日本 2位 韓国 3位 台湾
 強い 1位 ドイツ 2位 アメリカ 3位 中国
 寛大 1位 カナダ 2位 ニュージーランド 3位 アイルランド
 有能 1位 ドイツ 2位 日本 3位 韓国

日本は世界から「創造的」であり「有能」だと認識されている。
一方、以下はネガティブ項目。

貪欲 1位 中国 2位 ロシア 3位 アメリカ

傲慢 1位 ロシア 2位 アメリカ 3位 サウジアラビア

うそつき 1位 ロシア 2位 中国 3位 サウジアラビア

ここに日本が入っていないことも国際的イメージが良いことを物語っている。できるだけ敵をつくらず、産業立国を築いてきた日本の強みだろう。

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