「伝説のエンジニア」が明かすエヌビディアの死角 ラピダスや孫正義氏の半導体戦略はどう見る?

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エヌビディアの1.9兆ドル(約285兆円)という時価総額は、ある種の幸運の結果だとしても、HPC市場での成功は決して偶然の結果じゃない。

「顧客は自分が何を欲しいのかを知らない」と言ったのはスティーブ・ジョブズだったが、ジェンスンがCUDA(GPUを使いやすくする開発環境ソフト)を導入したのはまさしく、顧客がそれを欲しがったからじゃない。GPUを使ったHPCは伸びると彼自身が顧客より先に確信し、そのために何が必要かを見極めたからだ。

今後10年、AIは飽和しない

――そのエヌビディアに、あなたがCEOを務めるテンストレントはAI半導体の新興企業として挑戦するわけですね。

挑戦なんかしないよ。エヌビディアと競争する必要なんかない。AI半導体の市場はまだまだ10年は飽和しない。この成長市場で、私たちは全然違うやり方でやるんだ。

Jim Keller●テンストレント・ホールディングス(本社カナダ・トロント)CEO。半導体アーキテクト(設計者)。AMD時代に開発したCPUで、インテルから二度にわたりシェアを奪った。アップルでは独自プロセッサー「Aシリーズ」の初期開発に関わり、iPhoneの性能向上に貢献。テスラでも自動運転システムのプロセッサーを開発するなど、数多くの半導体設計プロジェクトを成功させた。インテル上級副社長の後、2020年にテンストレントにCTOとして入り、2023年1月から現職(撮影:今井康一)

エヌビディアであれどこであれ、巨大企業の目的はより高い株主利益を上げること。これに対して私たちはスタートアップだから、コンピューターをめぐる新たな技術と半導体を実現することが優先的なミッションだ。

たとえば私たちは、AIチップに書き込むソフトウェアをオープンソース化し、ユーザーに無償公開している。CPU技術をIPとしてライセンス提供もする。こんなことは、株主利益を重視する大企業にはできない。

AIの用途は本当に幅広く、無数の小規模なユーザーがいる。そのすべてがエヌビディアやインテルが提供する半導体に満足しているわけではない。私たちはこういった無数のユーザーに対し、AIを自由に使いこなせるコンピューター基盤を提供する。そのための半導体開発だ。

新しい技術や製品の価値を見極めるのはとても難しい。市場の変化は非常に速く、あるときに最強に見えた企業であっても簡単に地位を失い、新しいプレイヤーにとって代わられる。

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