だがコロナ禍、突然にインバウンド需要が消失したように、浮き沈みの激しいホテルビジネス。これまで、経費のかさばる夜鳴きそばサービスをやめようという声は上がらなかったのだろうか。
「さきほどの原価の件もそうですが、お客様が喜んでいただけるサービスを提供することが、私たちの使命だと思っています。そして、どうせやるのであれば、“お一人様何杯まで”など制限をつけず、原価や手間をいとわないのも社風です」(平山氏)
元々ドーミーインの歴史は1979年、受託給食事業からはじまった。その後寮の経営に乗り出し、長期滞在が基本の寮に対して、「出張で1泊だけ使えないか」という社員からの要望があったことがホテル経営のきっかけに。
体制を構築していくなかで、「非日常の堅苦しい場所」というよりも、「寮や家と同じ感覚で、ゆっくりとくつろげる場所」を目指すビジョンが固まっていった。そうして、「我が家のような寛ぎと快適性」がドーミーインのコンセプトになったのだ。
客室にもその想いは反映されている。象徴的な例が、ベッドの近くにコンセントや操作盤をすべて集めた構造だ。「ベッドに横になったままスマホを見たり、さまざまなアイテムに手が届く」ワンルームの部屋のような空間が演出されている。
実際、筆者がドーミーインに宿泊する際にも、どこかアットホームな居心地の良さが感じられる。それはこの客室であり、夜鳴きそばであり、スタッフの親しみやすい笑顔に起因するのだろう。また、カップ麺「ご麺なさい」にも、実家からの仕送りのような温もりが漂う。
「愛されるサービスは変えない」という矜持
これまで、ほぼ同じ味を15年間守ってきた夜鳴きそば。社員は出張の際ドーミーインに泊まり、味の確認も含めて必ず食べるそうだ。毎回食べることで、些細な変化にも気が付けるからだ。
ただ、なかには食べ過ぎて、すでに飽きているという人も……。今後、新しい展開は考えているのだろうか。
尋ねると、「ゆくゆくは、さまざまな味を提供しようという声も社内にはあります。ただ、そうすると今喜ばれているコンセプトがぶれてしまう可能性もあります。ですから今はまだ、基本の醤油味を大切にしていきます」と平山氏は説明してくれた。
愛されるサービスは、簡単には変えないという矜持。そこにドーミーインのホスピタリティの原点があるのかもしれない。後編では、1ホテルをのぞいてグループ全てに完備されるサウナから、ドーミーインの経営哲学をつまびらかにしていく。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら