[Book Review 今週のラインナップ]
・『グローバル・バリューチェーンの地政学』
・『本屋、ひらく』
・『朝鮮半島の歴史 政争と外患の六百年』
・『誰も国境を知らない 令和版 揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅』
評者・BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
18世紀後半の産業革命によって大量生産・大量輸送が可能となり、工業化社会が到来した。当時、生産網(サプライチェーン)は1国内で完結しており、西欧優位の時代が長く続いた。しかし1990年代後半以降、情報通信革命により生産工程の細分化が可能になる。グローバル企業は生産拠点を国外に移転し、新興国の安価な労働力を積極活用した。
それは中国経済の大躍進と先進国の中間層瓦解を招き、2010年代末には米中新冷戦が始まった。地政学リスクが高まる中で、今後、付加価値の世界的分配(バリューチェーン)はどうなるのか。第一人者が論じた好著だ。
ジレンマに陥った米中関係 日本はどのような立場を選ぶか
平時でもバリューチェーン全体の支配権を握るには主要工程の掌握が不可欠だ。近年は、中国が高付加価値製品の研究開発やマネジメントに参入し始め、その結果、軍事転用可能な分野で国を巻き込む支配権の争奪戦が始まった。
興味深いのは、「追いかけられる覇権国の恐怖」と「追いかける台頭国の驕(おご)り」によって対立が激化する局面、グレアム・アリソンの「トゥキディデスの罠」を米中がすでに超えたという指摘だ。トランプ、バイデン両政権で、米国は一気に対中包囲網を敷いた。外部勢力による政権転覆を恐れた中国は、習近平政権下で強権的体制を敷き対抗する。互いが最悪の事態を想定し対立激化を招く、「安全保障のジレンマ」に陥ったという。
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