「軽井沢移住」子どもの教育メリットとデメリット 子の自己肯定感は「競争環境」との距離で決まる

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だが、親の側からすると学校の教育だけだと進路が不安だからと、小学2〜3年生ぐらいになると子どもを塾に通わせるのが当たり前になっている。子どもの心理的発達の観点で見ると、低学年での塾通いの影響は小さくない。子どもは、おおよそ小学4〜6年生の頃に自我が芽生えるといわれる。それまで「ウルトラマン」や「プリキュア」などファンタジーの世界で生きていた子どもたちが、「他人から見た自分」を意識するようになり、「自分とは誰か」「他の人とは何が違うか」というアイデンティティをもつようになる時期だ。

一方で、塾に通うという行為は、偏差値という他人のモノサシをベースにした価値観に一気に近寄っていくことでもある。アイデンティティを確立する時期に差し掛かった途端に、社会のモノサシ(他人軸)を強制的に当てられる。これが日本の教育に埋め込まれてしまっている構造なのだ。

アートやデザインなどのクリエイティブ教育は、自分自身に向き合い、自分らしさをつくっていく上で重要な科目だ。だが既存の学校教育では、美術や図画工作といった教科は、基本的に「技術」を教えるのが主流となっている。技術である以上、上手な子と下手な子が出てきてしまう。下手な子はどうしても苦手意識をもつため、「自分にはクリエイティブな能力はない。向いていない」と思ってしまう。

子どもの時代に大切なのは、自分の想像したものを創造し、その作品を「ほめてもらう」「認めてもらう」といった承認のプロセスを体験することで、創造への自信を深めていくことだ。ところが、既存の学校の現場では、そのような機会をもつこと自体が難しくなっている。

今の学校教育では、テーマを探索してアウトプットするという創造の経験ができない。しかもその経験のないまま、受験戦争に突入してしまう。さらには、大学に入って余白ができたと思ったら、就職活動で自分をマーケティングすることになる。これらのプロセスでは、「人の役に立つか」という他人目線でしか自分を見ることがないため、内面への自信は養われないだろう。

どうしたら「余白」を確保できるのか

では、どうしたら子どもたちは「余白」を確保できるのだろうか。あらためて問い直してみると、難しい問題といわざるを得ない。東京などの都心に住んでいる限り、どうしても友だちが塾に行き始めるから自分も行きたい!というピアプレッシャー(集団における同調圧力)がかかり、受験戦争に自然に巻き込まれていくシステムになっているからだ。

その解決策のひとつとして考えられるのが、「同調圧力」から距離を置いてしまう、ということだ。実は、僕たち家族が東京を離れて軽井沢に移住したのも、子どもの教育にとっていちばん大事だと信じている「余白」を確保するためだった。

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