英国王の戴冠式、ロンドン地下鉄の「粋なお祝い」 80年前の旧型電車で「1953年」にタイムスリップ
2022年9月にエリザベス2世女王が亡くなったことにより即位したイギリスの新たな国王、チャールズ3世の戴冠式が5月6日に行われた。
4月に入ったころからイギリス各地でお祭りムードが高まる中、ロンドン交通局は「70年前の女王戴冠式の気分を味わおう」と銘打ち、1953年のエリザベス2世戴冠式の際に現役で活躍していた1938年製の地下鉄車両を本線上で走らせる特別イベントを実施した。チャールズ3世の戴冠式に先駆けて行われたユニークなイベントの現場に参加し、当時の雰囲気を体験してみた。
80年前の電車で「70年前」へ
今回のイベントで走った車両を説明するにあたり、簡単にロンドン地下鉄の歴史を紹介したい。
この街に世界初の地下鉄が誕生した1863年当時は、深いトンネルを掘る技術もなければ、電車や電気機関車も存在せず、蒸気機関車(SL)による運転だった。トンネルも地表からほど近いところを掘って蓋をした程度の造りで、各駅にはSLが煙を吐き出すために開口部を設けた。これは160年経った今も変わらず、雨の日は容赦なく地下のホームに雨が吹き込むが、この開口部のおかげで携帯電話の電波が通じるという現象が起きている。
1890年には地下深くを走る電気運転の路線が開業し、その後はトンネル断面の狭いこのタイプの路線が次々と建設された。円形の小さなトンネルは、ロンドン地下鉄の通称である「チューブ」の名の由来にもなっている。今回のイベントで走ったのはこれらの路線で使われた、1938年に初号車が走り出したことでこう呼ばれる「1938形」(1938 Stock)。屋根が半円状なのはトンネルの円周ギリギリまでスペースを取るためだ。
ちなみに、ロンドンが地下鉄150周年を迎えた2013年には、SL牽引による特別列車が運行された。筆者はその直後を走る一般列車に乗って追いかけたが、SLの煙が遠慮なく電車に流入。匂いがきつくて辟易した。
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