[Book Review 今週のラインナップ]
・『ナチスの北欧幻想 知られざるもう一つの第三帝国都市』
・『人新世の経済思想史 生・自然・環境をめぐるポリティカル・エコノミー』
・『なぜ君は、科学的に考えられないんだ? 変人研究者が教えてくれた最強の科学的思考法』
・『江戸のキャリアウーマン 奥女中の仕事・出世・老後』
評者・東京都立大学准教授 佐藤 信
ナチス・ドイツが巨大な建築や都市計画、儀式の威容によって自らの統治を正当化しようとしたことは、日本でもよく知られている。建築史家協会スピロ・コストフ賞を受賞した本書は、ナチスが占領地・ノルウェーで大規模な構想を羽ばたかせていたことを明らかにする。
ヒトラー自身も関与した計画 他者の地に自らの幻想を投影
1940年から始まったナチス・ドイツの占領において、破壊された街の再建を急ぐノルウェー人に対し、ナチスは自らの下での「戦後」を見据えて新たな空間秩序を作り出そうと画策した。5年も占領しながら計画の多くは実現しなかったが、それはナチスが関心を持たなかったからではなく、本腰を入れてじっくり取り組んだからだという。
なかには首都オスロをしのぐ巨大新都市の計画さえ存在した。残念ながら、全貌を示す図面などは見つかっていないが、本書はヒトラー自身も関与した計画過程を丹念に辿(たど)る。加えて、ドイツから北極にまで通じる高速道路計画。町々に駐屯するドイツ兵のための巨大な駐屯施設。破壊された都市の大規模な改造計画。いずれでも、ナチスはノルウェーに理想を、幻想を、押し付けようとした。
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