世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)をめぐる被害者救済新法は2022年12月の臨時国会で成立し、2023年1月5日に施行された。安倍晋三元首相を銃撃する事件を起こした山上徹也容疑者が統一教会の「宗教2世」だったことから同教団の被害が浮き彫りになり、救済新法に結びついた。
しかし宗教2世問題は、統一教会だけの話ではない。
2世当事者からの被害報告が多く聞こえてくるのがキリスト教系の新宗教「エホバの証人」(以下、エホバ)だ。輸血の禁止をはじめ、進学や就職を制限されるなど人生の選択肢が著しく狭められることに少なくない2世が苦しみを訴えている。原理主義的な縛りに耐えられず脱会すると、家族や友人たちとの交流が絶たれ、孤立してしまうところにも特徴がある。
エホバの実態に迫るリポート後編は、両親の虐待によって精神を病み、あげく教団から排斥されながらも両親の愛情に飢える兄と、やはり親の宗教活動によって進学も出産も諦めた妹の切実な訴え。(前編は「脱会した宗教2世が『母に会えない』過酷な現実」)
5年ぶりに再会した兄と妹
「先日、5年ぶりに兄と会って食事しました。精神疾患を患う兄には家族の愛情が必要だったのに、両親は兄と会うことすらしません」
そう話す香さん(41歳、仮名)は、キリスト教系の新宗教、エホバの証人(以下、エホバ)の2世信者だ。現役信者である香さんには、3歳年上の兄がいる。兄は女性関係が原因で組織から排斥(除名処分)され、実家に帰ることを許されていない。
エホバの排斥は、バプテスマ(洗礼)を受けた後に教義に違反した場合に下される最も重い処分だ。排斥という決定が下ると、周囲の信者だけでなく家族や親族も当人との接触を禁じられる。そのため現役の信者である香さんや両親は兄と会うことが認められていない。
香さん一家に何が起こったのか。
テレビのコードでたたかれる
両親ともにエホバ信者の家庭で育った香さんと兄は、幼少期から激しい体罰を受けて育った。エホバは、聖書の記述に基づき子どもをムチで懲らしめるという教えがある。香さんと兄は、父親からテレビのコードを三つ編みにしたムチで何十回もたたかれ、体がみみず腫れしたこともあった。特に男性である兄への体罰は激しく、その苦しみから吐いてしまうこともあった。
「たたかれたことに対して『ありがとう』と言わなければ、さらにたたかれる。泣きながら『ありがとう』と繰り返していました。苦しくても、子どもはそこで生きていくしかなかったのです」
兄は中学生になると体が大きくなり、父親の暴力に抵抗するようになった。すると、父は暴力に加え、お小遣いを与えない、門限を厳しく設けるなど、兄の行動に制限を加えるようになる。
兄はエホバの集会に行くことも拒むようになった。しかし、行かなければ、また父に殴られる。「そうした葛藤をつねに抱えていた兄は、次第に心を病んでいきました。集会に出かける準備をしている私に手を上げたこともあります。自分でも自分をコントロールできなくなっていたのだと思います」。
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