「たった1日の育休」を取った銀行員の複雑な胸中 育休取得男性の約3割が5日未満という衝撃事実
「〇〇さんにお子さんが生まれますので、育休を取得させてください」
佐藤拓也さん(仮名・30代)が勤める地方銀行では、男性行員に子どもが生まれる際、人事から所属長のもとに、育休取得を促すメールが届く。佐藤さんも第一子が生まれる際、上司から「会社として育休を取らせなきゃいけないから、ちゃんと取るように」とクギを刺された。
この取り組みが奏功してか、職場では多くの男性が育休を取得している。ただ、問題はその中身だ。男性育休取得者のうち7~8割は育休を1日しか取らない。それが行内の暗黙の了解になっていた。
時折、1日以上取得する人がいるものの、その期間は最長でも1週間が限度。しかも職種は、顧客対応をしていないバックオフィスに偏っていた。
「取らない」選択肢もなかった
「たった1日の育休であれば、いらない」。正直、そう感じるメンバーも多いことだろう。しかし、「取らないという選択をすることも難しかった」と佐藤さんは言う。
「会社の方針で、育休を取らないのもダメだと言われて。僕も仕事が忙しく、育休取得をどんどん先延ばしにしていたら、上司から『取るように』と念押しされ、それで慌てて1日だけ取得したんです。幸い、『土日に合わせて取っていい』と言われ、3連休にはできたのですが……」
結局、佐藤さんが育休を取ったのは子どもが生まれて2カ月が過ぎたころ。それでも佐藤さんの妻は「休んでくれてよかった」と言ってくれた。育休中は朝から掃除や料理をして過ごしたが、「それは育休という枠組みでなくても、通常の休日に十分できること。産後の妻のケアができたり、育児がうまくできるようになるわけではない」(佐藤さん)と首をかしげる。
法改正もあり男性の育休に力を入れる企業は多いが、厚生労働省の「令和2年度 雇用均等基本調査」によると、2020年度の男性育休取得率は12.65%。しかも、育休を取得した男性のうち「育休期間が5日未満だった」と回答した割合は28.33%にのぼる。
たった数日であっても育休を取らせれば、企業としては「男性育休取得率100%」「9割以上が育休取得」などと対外的に公表できる。しかし、そんな“形だけの育休”にはたして意味はあるのだろうか。
男性育休の主な目的は、男女ともに仕事と育児を両立できる社会をつくること。企業にとっても実は、さまざまなメリットがある。