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「アメリカから見えた日本の大学の悲惨な現状」 TTIC古井貞煕学長が鳴らす警鐘

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古井貞煕(ふるい・さだおき)/1945年生まれ、東京大学工学博士。日本電信電話公社(現NTT)での研究職を経て1997年に東京工業大学教授、2011年名誉教授。2013年から現職。音声認識技術の先駆的な研究で有名(撮影:今井康一)

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豊田工業大学シカゴ校 (TTIC)は、トヨタ自動車系列の豊田工業大学と米シカゴ大学が提携して開校したコンピューターサイエンス専門の大学院大学だ。2003年開設の新しい学校だが、米国ではコンピューターサイエンス研究をリードする学校の1つと認知され始めている。自身も音声認識を専門とするコンピューターサイエンティストである古井貞煕学長に、米国から見た日本の大学と研究者の問題点を聞いた。
(注)週刊東洋経済掲載インタビューに加筆しています。

 

──日本の大学に悲観的な見方です。

中国のような海外の大学に優れた研究者が流出する現象は、このままでは今後間違いなく顕在化してきます。今、日本の大学と研究者の置かれている環境があまりにも悲惨だから。給料が安い、研究費も乏しい。雑用が多く、研究と教育に没頭できない。この惨状が変わらない限りは、南方科技大学にいる日本人教授に限らず、中国に流出する研究者はこれから何人も出るでしょうね。能力と意欲のある日本人研究者なら、今中国に行けば桁違いの研究費が提示されるのだから。これについて、日本は強烈な危機感を持つべきです。

大学の現場の声がほとんど反映されなくなっている

──現状を招いた原因は。

端的に言うと、内閣府とその下の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)がダメにしている。政治主導で、トップダウンで何もかもコントロールしようとしている。教育と研究をめぐる議論に、大学の現場の声がほとんど反映されなくなっているのです。

私自身、政府のある会議に出たことがあります。議論の内容は事前の根回しですべて決まっており、反対意見を言っても議事録に残りすらしなかった。出席者の中には、学術界を代表して果敢に意見を言う先生がいたが、完全にスルーされていました。また日本経済団体連合会(経団連)も、「今の大学は産業に役立っていない。産業界の意向をくんだプログラムを導入し、教員を変えなければならない」として、政治を通して大学教育に大きな圧力をかけている。大学の現場からの意見は、政治にも産業界にも、根本的に信用されていないのでしょうね。

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