日本の「ゴジラ対策」危機管理的にどうだったのか 未知の生物との戦いにどう挑んだらいいか

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巨災対の参謀に任命された官僚たちは、「そもそも出世に無縁な霞が関のはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児。そういった人間の集まり」と言われているが、これは、上記の「危機時に有能な部下」を表現しているとも言えよう。平時に有用な者と、危機に有用な者は、必ずしも同じではない。

巨災対で改善の余地がある要素もある。巨災対では、インシデント・コマンダーの下に、10個程度の参謀部門がぶらさがる。具体的には、厚労省・環境省・文科省・国交省・防衛省・経産省など、省庁別に数名毎のチームが参謀部門を形成しているようである。

この点は改善の余地があるだろう。インシデント・コマンド・システムには、「統制範囲」という概念がある。統制範囲とは、「1人の人間が効果的に監督できる部下の数は限られている」という事実を前提として、監督する部下の人数をつねに最適に保つための概念である。

最適な比率は上司:部下=1:3〜7とされており、インシデント・コマンダーは3〜7の参謀部門「長」を通じてその下の各部門を統制する。したがって、矢口の下にぶら下がる参謀部門の数も多くとも10個以下に抑えることが有用だろう。

長期的な危機に対して効果的な事態対処行動を行うためには、インシデント・コマンド・システムに所属する参謀達の身体をつねに健全に保つ必要がある。そのためには、シフト勤務や交替人事が必要だ。しかし、巨災対のインシデント・コマンダーと参謀達は、巨災対に寝泊まりし、カップラーメンでしのぎつつ、風呂にも入らず、不眠不休で事にあたっている。これでは長期的な危機は乗り切れない。

「巨災対」に欠けている視点

EOCとしての巨災対はどうか。巨災対では、大部屋に長机を並べてスタッフが詰め、その壁一面にホワイトボードが敷き詰められ、そこには磁石で紙が貼られ、情報共有がなされている。大部屋はいい。しかし、アナログだ。したがって、EOCの3S(スタッフ・設備・指揮統制支援システム)に照らせば、設備と指揮統制支援システムの2つが欠けている。すでにこれはEOCではなく、議論の余地がない。

巨災対は文官が中心となって構成する危機管理組織だが、作中でそれと対照を成すのが、自衛隊の事態対処行動の様子である。

自衛隊の幹部が会議をするシーンでは、その奥に、IT設備が整備された大部屋にスタッフが詰めてオペレーションを行っている様子が見て取れる。つまり、自衛隊の事態対処行動では、EOCが活用されていることがわかる。

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