日本の採用面接が人をちゃんと見抜けない理由 あのグーグルも「面接の価値」を否定した

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別の言い方をするのであれば、面接に落ち続けたからといって、決してあなたの人格まで否定されたわけではない、ということでもあります。あなたはただ単に、矛盾や理不尽だらけの「面接」という、かなり高難易度なムリゲーに放り込まれてしまっただけなのです。

最も妥当な「選考方法」とは

採用選考の中で最も妥当性が低いとされるフリートーク面接ですが、それでは妥当性が最も高い選考方法は何でしょうか。答えは「ワークサンプル」です。

これは実際に仕事をやらせてみて、その作業成績を評価する方法であり、例えば出版社が編集者を採用する場合に、実際に編集作業を行ってもらうような選考方法です。プログラミングやアートなどの職種では、数十年以上前から通常の面接ではなく、成果物を披露しつつ説明してもらう形式の選考が実施されています。

このような専門的な職種では、これ以外の選考方法は他に思いつきません。未経験でも実際の仕事をやらせてみる、あるいは実際の成果物を見せてもらう。このほうが面接よりも適性を判断しやすいのは明らかでしょう。

実際に作業をするというと、「インターンシップ」を思い浮かべる人も多いでしょう。確かにアメリカでは、大学生がインターンを経てフルタイムの仕事に就くのが一般的で、インターンシップは採用に直結するものとしてとらえられています。

しかし日本では、インターンシップは必ずしも採用に直結しません。インターンシップはあくまでも学生が「組織で働くとはどういうことか」「自分の適性は何か」を知るのが目的という位置づけだからです。

東証一部上場企業を中心に構成される一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が提言する『「採用選考に関する指針」の手引き』にも、「インターンシップは、産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供するものであり、社会貢献活動の一環と位置付けられるものである。したがって、その実施にあたっては(中略)採用選考活動とは一切関係ないことを明確にして行う必要がある」と明記されています。仕事の適性を測るというより、教育の一環という意味合いが強いということです。

その一方で、中小企業の中には、無給あるいは著しく低い賃金で学生を働かせているケースがあります。人手は欲しいが自社で人材育成する余裕はない、そこでインターンシップの名の下、学生を都合よく利用しているのです。そのようなインターンシップは、人材育成や社会貢献という観点からもほとんど意味がありません。

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もちろん、ワークサンプルによる選考には膨大な時間と人的リソースがかかります。現場の社員が志望者につきっきりで指導したり、その成果物を評価したりしなくてはならないからです。

一部のベンチャー企業では、適性検査や構造化面接、ワークサンプルなど、さまざまな採用手法に切り替える改革が進んでいますが、何万人という志望者が集まる大企業ともなると、全員をインターンとして受け入れるのが現実的に難しいこともあり、ワークサンプルによる選考はあまり広がっていません。ほとんどの日本の企業では、いまだに旧態依然とした面接が行われているのです。

志望者の入社後の活躍を予測するはずの面接が、実はまったく予測できていないというのは、本来あるべき状況からズレています。それどころか日本の採用は、世界のスタンダードからもズレまくっているのです。

曽和 利光 人材研究所 社長

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そわ としみつ / Toshimitsu Sowa

株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。現在、人々の可能性を開花させる場や組織を作るために、大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して諸事業を展開中。著書等:『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48』(東洋経済新報社、共著)など。

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