Iとは約10年近く前、お互いの長男が小学校の同級生だった縁で知り合った。いわゆるママ友だ。
といっても、最初の数年はあいさつを交わす程度の浅い付き合いで、今のように仲良くなったのは、ある年に開催されたクラス親睦会でのことだった。たまたま近くに座ったので話していると、彼女の喋り方に懐かしいアクセントを感じた。
「もしかして、九州ですか?」
尋ねると大当たり。Iは鹿児島の出身だという。私は福岡なんですよ、と言うとIは、「え〜奥さんも九州?! あらま」と、やはり九州特有のアクセントをにじませつつ、驚いてみせた。
昭和の主婦はコスプレ…?
それにしても今日、目の前にいる相手を“奥さん”なんて二人称で呼ぶことは滅多にない。私が子どもの頃にはたしかに、実家の母が使っていたという記憶はあるけれど、今まわりを見渡しても、現役で使うのはIくらいのものだ。
“あらま”なんて驚きの声だって、漫画以外ではやっぱり滅多にお目にかからない。かれこれ30年近く東京に住んでいるというのに一向に抜けないアクセントも、短い会話にさえぬかりなくにじみ出るちょっと古めかしい表現も、Iの素朴で飾らない人柄を表しているようで、いいな、と思った。
……ただ、同時に必ずしもそれだけではないような気がかりもあった。素朴で飾らない人、それ以上にもっと作為的な何かがあるような……。昭和の主婦みたいな言い回しの裏には、昭和の主婦のコスプレみたいな、どこか演技じみたニュアンスがなきにしもあらずだった。……もしかするとこの人、面白い人なのかもしれない。
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