なぜ日本の住宅は「本物」の木を使わないのか 「木のイノベーション」が日本の地方を救う

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Q(あるいはua値)は「熱損失係数」と言われ、小さければ小さいほど熱の出入りがないことを示す。「この値が小さい住宅」は、すなわち、エネルギー負荷の小さい建物になる。

だが、窓からの熱の出入りが多い場合、窓を小さくしてしまう。これは大きな誤解のもとになりかねない。本州以南の地域では太陽の恩恵をもっと受け、それを窓で受け止めるべきである。だから、南側の窓は大きくなる。そうやって、大きくしていくと床面積40坪(約132㎡)程度の家なら、エアコンにほとんど頼らなくてよくなるほどだ。きちんと断熱して、南側の窓を大きくすることで、自然のエネルギーをうまく使うということができる。

よく、「そうなると建築が高価になってしまう」と言われる。だが、きちんと断熱すれば窓が大きくても、高くなるといっても、金額は200万~300万円程度である。とすれば光熱費の差額(年間20万~30万円は違う!)でその金額の元を取るのは10年ほどかかるが、 エアコンの買い替えやその台数を考えると、10年よりももっと短いと考えて差し支えない。

では住宅メーカー各社は、なぜもっと真剣に断熱の分野に取り組まないのだろうか。Q値の話もしたが、最近では各社とも温熱性能の競争を繰り広げている。だが営業マンが持つ専門的な知識がまだまだ少なく、その有用性をきちんと訴求できていない。

もちろん各社とも「2020年基準」という最低限のバーは越えようという対応まではできているが、 その基準は前述のように大したことがない。筆者はさらにその上を目指すべきだと考えている。

「付加断熱標準住宅」で断熱レベルはグンと上がる

だが、住宅メーカーは「マーケットのニーズは思ったほど大きくない」などと言う。だが、そうではない。実のところ、あるレベル以上の断熱をしようとすると、現在の生産ラインをすべて改造しなければできないという事情があるのだ。今までは壁の断熱を柱の間だけ行う「軸間断熱」でよかったのだが、それ以上の性能になるとさらに外側に付加する「付加断熱」が必要になるからだ。

だが、住宅メーカーでも、実はこの付加断熱を標準にして売り上げを伸ばしているメーカーもある。たとえば一条工務店(本社:東京都江東区木場)である。

同社は、テレビコマーシャルなどは打っていないものの総合展示場で顧客を獲得、住宅メーカーの中では安い単価を保っているので、急速に売り上げを伸ばしている。

一方、住宅メーカーには「アキレス腱」がある。「型式認定」という仕組みだ。これは、標準設計を、余裕を持たせて国土交通省に申請することで、個別の構造計算をしなくてもいい仕組みである。温熱環境に関しても同様で、特に個別の対応を必要としない。これは強みであると同時に弱みでもある。つまり、建物がどこに建っているか、どう建っているかで、日差しの入り方、風の抜け方などは個別に設計されるべきだからだ。地域によっても、気候が違う。つまり、本来はその地域ごとに合わせた設計が行われるのが理想的である。大手の住宅メーカーは、なかなか対応しきれない。

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