歴史の街、会津若松スマートシティ化の理由
地方躍進の鍵は
「強烈な危機感」にある
日本全国でスマートシティへの取り組みが始まっている。中でも注目は、2018年6月、総務省「情報通信月間」の総務大臣表彰を受賞した福島県会津若松市だ。同市のプロジェクトは東日本大震災をきっかけに、会津若松市、会津大学、そしてアクセンチュアの3者協定からスタートした。人口約12万人の地方都市は、逆境からいかにして先進のスマートシティへと変革したのか。総務省総務審議官の鈴木茂樹氏、アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長の中村彰二朗氏、同チーフ・マーケティング・イノベーターの加治慶光氏に、ICTを活用した地方創生の可能性について語ってもらった。
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エネルギー、医療、交通……。
あらゆる分野でICTを活用
会津若松のプロジェクトが2018年度の「情報通信月間」において総務大臣表彰を受賞しました。
鈴木今、多くの自治体でスマートシティの実証実験が行われています。ただ、その多くが、エネルギーだけ、医療だけ、交通だけというように単独のプロジェクトです。それに対して会津若松はあらゆる分野でICTを活用して横につなげてプラットフォーム化しながら、しかも継続して展開しています。一つの都市を丸ごとスマート化したケースとして高く評価しています。
中村私たちはスマートシティを「市民がデータを見ることによって自ら行動変容を起こす街づくり」と位置づけています。スマートシティの主人公は、行政や企業ではなく、あくまでも市民。市民の参加率が高くないと意味がありませんので、できるだけ多くの分野に対応して間口を広げ、多くの市民が参加しやすい環境を整えました。当初は「いろいろ手を出しすぎだ。どの分野かに集中したほうが良いのでは?」という疑問の声もあっただけに、その点を評価していただけてうれしいですね。
加治都市が抱える課題は重層的につらなっているので、一つだけを解決してもうまくいきません。たとえば医療分野でAIが対応するサービスをつくっても、法律の規制があってそのままでは導入が難しいことも。また、現在は診療費を院内で精算するため会計窓口が非常に混雑しますが、決済システムとつなげれば、治療後、病院で待たずに帰宅してから精算することも可能になります。このように課題が各分野にまたがって横断的につながっていることを考えると、デジタルシフトは一気に進めたほうがいい。そこにチャレンジしたのが会津若松のプロジェクトでした。
会津若松でスマートシティのプロジェクトを始めた経緯は?
中村きっかけは東日本大震災です。実は総務省とは、3.11の前からスマートシティの実証実験について話をしていました。その最中に3.11があり、スマートシティで復興に貢献することに。中でも会津若松は人口約12万人で、実証実験には適正なサイズです。さらに、会津大学というICT専門大学があって人材育成体制面でも条件がそろっていました。そこで「福島イノベーションセンター」という拠点をつくり、産官学でプロジェクトをスタートさせたのです。
鈴木会津若松はお城があって観光資源が豊富。市街地があって、農業も盛んです。海に面していないだけで、あとは日本の縮図のような地方都市です。ここで成功すれば、日本各地への横展開が期待できる。アクセンチュアさんは、非常にいいところに目をつけたなと思いました。
鈴木 茂樹総務省総務審議官
1956年生まれ。神奈川県出身。81年郵政省(現・総務省)入省。2009年、東海総合通信局長。10年、独立行政法人情報通信研究機構総務担当理事。13年、大臣官房総括審議官。14年、情報通信国際戦略局長。15年、内閣官房郵政民営化推進室郵政民営化統括官を経て、18年現在、総務省総務審議官(郵政・通信)。
会津若松の課題は、
地方共通の課題
中村復興計画をつくり始めて見えてきたのは、会津若松の課題は全国の地方都市が抱える共通の課題だということ。地方都市の集合が日本ですから、会津若松が抱える問題は突き詰めると、日本が抱える問題でもあるのです。それをデジタルで解決する。そういったチャレンジをしてきました。
加治地方共通の課題として大きいのは人口減少です。たとえば、いい高校や大学があって若者を集めることができたとしても、卒業すると東京へ出てしまう。これは非常にもったいない。
鈴木高度成長期は工業団地をつくって雇用を確保していましたが、バブル崩壊後は単純な組み立て産業が韓中等に移り、多くの工業団地が更地のままになってしまいました。地方で雇用をつくると言っても、今さら工業団地で誘致するという話ではないでしょう。そこで必要となるのがICTを核とした新しい産業です。
中村そういった意味では福島イノベーションセンターの開設後、会津大学の学生がアクセンチュアに入社して、会津プロジェクトに入り、会津にとどまる流れができ始めています。また、最先端のプロジェクトなので、東京をはじめ全国からビジネスパーソンが会津に出張に来るようになりました。今、会津若松駅前のビジネスホテルは稼働率約90%以上です。さらに、デジタル実証フィールドとしての会津が定着してきたことで、中心市街地に500人規模のICTオフィスが建設されるまでに至りました。また、アクセンチュアでも福島イノベーションセンターを拡充し、2019年中に200人のプロジェクト推進体制を整備します。
注目される先端プロジェクトを長く継続させるためには、多くの市民がメリットを享受できる仕組みをいろいろと提供しなければなりません。たとえばスマートメーターを通して電力のデータ分析を行い、省エネになる使い方を市民にレコメンデーションするといったことです。その結果、電力消費量が1200世帯で最大27%削減されて、各家計の負担が軽くなっています(会津地域スマートシティ推進協議会調べ)。
データは囲い込むよりも提供したほうが社会のためにもいいし、自分にもリターンがあるという理解が得られつつあります。私自身の実証実験ですが、DNAデータを保険会社と連携して、自分に最適な保険商品を提案する仕組みを海外事例などを踏まえて研究しています。実際、私はそれでかかるリスクの低い病気の保険をやめることで保険料が10%も下がることがわかりました(笑)。こうした取り組みが進めば、市民がメリットを得ると同時に、予防医療へシフトすることで社会にも寄与し、IT企業や保険会社、製薬会社などさまざまな企業がやってきて、地方創生も実現します。まさに三方良し(WinWinWin)です。
強烈な危機感が
スマートシティ推進の力に
同様のケースは全国に広がっていますか?
鈴木残念ながら、会津若松のように産業が集積するレベルで効果が出たケースはほとんどありません。スマートシティ推進事業で総務省から補助金を出していますが、多くは実証実験が終わると同時に立ち消えになり、実用まで至っていないのが実情です。補助金終了後も自分で回せるビジネスモデルへの変革が求められています。
加治『イノベーションのジレンマ』のC・クリステンセン教授が「現状に対する危機感が深いほどイノベーションのスピードは増す」と言っているように、スマートシティ化の推進力になるのは「危機感」です。会津若松の場合、人口減少という地方共通の課題に震災からの復興という課題が重なって、強烈な危機感が醸成されたことが大きかったのだと思います。
鈴木本当は危機こそチャンスなんですよね。たとえば農家の後継ぎがいないことが問題になっていますが、これは農地を集約して大規模化する絶好の機会でもあります。このように、少し考え方を変えると産業構造を変えるチャンスがどこにでもあります。地方が抱えるほかの課題も、スマート化することで強みに変えられる。そのことを自治体の首長さんには意識してもらいたいですね。
会津若松のような成功モデルを横展開するには何が必要でしょうか?
鈴木これまでは実証実験でうまくいったモデルを横展開するとき、それぞれの自治体が個別にベンダーに相談に行って一からシステムをつくり込むのが通例でした。しかし、それではコストがかさみ、継続も難しかった。
今、総務省では、実証実験でいくつかの成功事例が出てきたら、それを各省庁に渡して、その省庁の予算で普及してもらう流れをつくっています。このときシステムは各自治体でつくり込むのではなく、クラウドでまとめて提供します。
中村 彰二朗アクセンチュア
福島イノベーションセンター センター長
1963年生まれ。宮城県出身。86年より、UNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーへの経営にかかわる。2002年、サン・マイクロシステムズへ入社、e-Japanプロジェクトを担当、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。11年、アクセンチュアに移籍し、3.11以降は福島県復興のために設立した福島イノベーションセンターのセンター長に着任。
「イノベーション・ハブ」で
新しい知に出会い、化学反応を
鈴木たとえば、長野県の塩尻市では鳥獣被害対策で、センサーとカメラを活用して獣の通り道に罠を置き、罠にかかったら即座に猟友会にメールが届くというシステムをつくりました。電線を張る方式ではないので人が感電するリスクはありません。また、獣が苦しむ前に殺処分して血抜きをするので、ジビエとして高く売ることもできます。この仕組みは農水省の補助金等を活用し、いまや全国300カ所以上で導入されています。これだけ広がったのも、クラウドで回線さえつながれば利用できるからです。これからこうした例をさらに増やしていければいいなと考えています。
中村2017年、会津若松では、群馬県前橋市で成功した母子手帳のデジタル化を「会津若松+(プラス)」という市民向けポータルサイトの1機能として導入しました。これもクラウドで、導入コストは低い。横展開のハードルは確実に下がっています。
鈴木横展開で注意したいのは、ほかの地域の成功モデルをそのまま導入してもうまくいくとは限らないこと。自治体が置かれている状況はそれぞれ異なるので、自分たちのところにうまく合わせる工夫が必要です。自治体やベンダーが情報交換する場として2017年7月に「地域IoT官民ネット」を設立したので、ぜひ活用していただきたいですね。
加治アクセンチュアも2018年1月に「イノベーション・ハブ東京」を開設しました。イノベーションは、さまざまなステークホルダーが出会い、新しい知の結合が起こることによって促進されます。産官学はもちろん、地域の課題に長く向き合っているNPO・NGOやボランティアとのマッチアップの場として利用していただきたいと考えています。また、各自治体へ地域の課題に応じたデジタルサービスを構築するお手伝いもしています。
これからしばらく、わが国では2020年へ向けて世界から注目されるイベントが続きます。日本の地方都市には「世界の中心でオラが町のICTで解決したこと」を叫んでいただき、さらに世界の課題解決に貢献するのだ、という気概を持ってチャンスを生かしていただきたいと思います。
加治 慶光アクセンチュア
チーフ・マーケティング・イノベーター
富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院にてMBA修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズなどを経た後、日産自動車にて高級車担当マーケティング・ダイレクターとして、スカイライン、GT-Rなどの市場戦略構築・実施の指揮を担当。2011年より内閣官房首相官邸国際広報室参事官として、日本ブランド海外発信、クール・ジャパン、SNS、リスクコミュニケーション、2020オリ・パラ招致、ダボス会議、など省庁横断活動を担当。任期終了に伴い14年より現職。