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AI時代、ビジネスはこう変わる 後編 AIを目的ではなく、
手段として使える人材に

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AIにより、ビジネスのプロセスが変わりつつある今、人間の判断とAIの判断をどのように組み合わせれば大きな効果が出せるのか。AIの導入によって役割が変わる社員を、企業はどのように再教育すべきなのか。国立情報学研究所の新井紀子教授とアクセンチュアのイノベーション・ハブ東京共同統括マネジング・ディレクターである保科学世氏が対談。後半は、AIを企業が導入する際のポイントがテーマとなった。

制作:東洋経済企画広告制作チーム sponsored by accenture

人にできる“+α”の部分が
イノベーションにつながる

保科AIやアナリティクスを活用して何かを判断する際、人間と機械の役割分担というのは難しいポイントだと感じています。たとえば私自身、クライアント向けに需要予測をすることが多いのですが、機械が出した結果をそのまま用いるのか、あるいは人間ならではの判断が必要となるのかによって、精度を追求するべきか、アルゴリズムの可視化を追求するべきか、そのバランスを調整しています。

新井『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』は2018年2月の発売から2カ月で約20万部も売れました。その大きな要因は、営業や編集の方が自分の肌感覚を頼りに、過去のデータから算出される予想の発注量よりはるかに多い冊数を発注したことで機会損失を防ぐことができたためです。私としても、誰々さんが書評を書いてくれたとか、あの人も話題にしてくれている、など本書に手応えを感じることが多くあり、発注量を増やしたのには納得感がありました。こういったケースへの対応は、AIによる分析システムでは難しいと思います。

保科AIによる需要予測でも、そういった肌感覚を取り入れるために、口コミやインフルエンサーによる拡散度合いをデータとして取り入れているケースもあります。ただ肌感覚はソーシャルデータに現れないものもあるので、取得できるデータにのみ頼るのは危険ですね。

新井書籍の需要予測の例のように、AIが出す通り一遍の答えに対して、+αをできる人がこれからの時代、必要になるんだと思います。言い換えると、“リアリティ”がある人。リテラシーの話と併せると、リスクを減らすために必要なことがリテラシーで、+αに必要なものがリアリティです。

コンビニの需要予測の話をデータサイエンティストの方から聞いたことがあります。たとえば、半径200メートルくらいの地点で小学生のサッカー対抗戦があったとします。すると試合が終わったあとに、小学生たちがアイスを食べにくるなと予測できます。そういった情報を把握して、発注量を変えるのがリアリティです。店長のこのような力によって売り上げは大きく変わってくるそうです。

新井 紀子国立情報学研究所教授

東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学卒業、イリノイ大学大学院数学科課程修了。博士(理学)。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。主著に『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)、『ほんとうにいいの? デジタル教科書』(岩波書店)、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)など。「教育のための科学研究所」代表理事・所長も務める。

保科われわれとしては、その店長さんのような肌感覚の部分も可能な限り反映できるようにサービスを開発しています。「アクセンチュアフルフィルメントサービス(AFS)」という在庫・補充最適化のクラウドサービスでは、日々さまざまな商品のデータ解析を行うことで、イレギュラーな状況においても発注の精度を高める工夫をしています。商品や店舗の増加、季節性など複雑化するサプライチェーンマネジメントにおいても、実需に基づいた需要予測を行って、欠品や余剰在庫を防いでいます。先生からご指摘があった突発的なイベントや、意図をもってこちらから仕掛けるキャンペーンについては、タイミングとその感覚値、たとえば絶対数を予測するのではなく、あるカテゴリの商品が通常の1.5倍くらい売れそうといった感覚値を事前にインプットしてもらい、機械は統計予測と組み合わせて絶対数を予想するとともに、人間が予想を外した場合には速やかに機械が補正をかけるような仕組みも実装しています。

新井そういったサービスはベースラインとして、非常に有効でしょう。ただ、AIに判断させるためにデータを与える場合、どうしてもどこかでフレームを切らなくてはいけません。めったにないケースまで考慮したような、あまりに大きなデータを与えすぎても学習がうまくいくとは限らないので、あるところで情報を切る必要がある。その枠の中を分析して予測できるのは、あくまでベースラインの部分。無駄を減らすための便利なツールとしては機能しますが、その中で経済活動をしていくと事業はシュリンクしてしまいます。そこに満足せず、予測に当てはまらないものをつくっていく。確率や統計を超える工夫を生み出していくことこそが、AIにとっても新たなデータとなり、持続可能なイノベーションにつながるのではないでしょうか。

保科ビジネス観点で言えば、マクロで予想を当てるべきところは当てて、めったにないケースに関しては、機械での予想についてある程度の割り切りも必要です。過去のデータで判断すべきは判断し、過去のデータからは予想できないビジネスを生み出すことこそ、人間に求められているのではないでしょうか。

AIはコスト削減でなく
社会課題に対して使うべき

新井AIを使ってイノベーションを起こそうとする際、いちばんやってはいけないのは一発大逆転を目指すことです。スパコンを使ってすごいAIをつくって神風を吹かそう、みたいなことはやめたほうがいい。コンビニのような、リアリティのあるレイヤーを例にお話ししているのはそういった意識があるからです。

全体の最適化は相当なビッグデータがないとできない。そうではなく周辺5キロで困っている人を、AIと皮膚感覚の組み合わせで見つけて助ける。そういうことに使うべきだと思います。

保科先生のご指摘どおり、身近で困っている人を助けるというのは、サービス開発において非常に重要な観点とわれわれも考えています。アクセンチュアにおいても、社会課題をひたすら発掘していくチームを日本のオープン・イノベーションチームの中に設けています。少子高齢化社会をいち早く迎える日本は課題先進国であり、そこに根差したサービスこそ将来にわたって生き残るサービスであり、今後遅れて高齢化社会が訪れるアジア各国でも勝負できるサービスになると考えています。AIは社会課題に対応するためにこそ使うべきだと今日あらためて思いました。私自身も介護施設を回っていて、介護にデジタルテクノロジーが使えないか日々考えています。そして、2015年から排泄予測をするウェアラブルデバイスを開発しているトリプル・ダブリュー・ジャパンとも協業し、共同でのサービス開発を進めています。

実は、今この対談をしているアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京は、そういったあらゆる業界の知見や先端技術を持ち寄り、垣根を超えたイノベーションを支援する拠点としてつくられたものです。大企業とスタートアップ、教育・研究機関、地域社会などとの橋渡し役となることで、社会課題を解決するオープンイノベーションの推進を目指しています。

新井社会課題に対してAIを使うというのはすごくいいですね。AIは今バズワードになっています。今日のお話ではAIという言葉でなくて、データサイエンスといったほうが正確な箇所も多いと思います。それが、データサイエンスの意味がわからない人がフィンテックと言い換えるなど、AIに関連する言葉はバブルのような状態にあります。

保科まだ実ビジネスで活用できているのは、AIよりもアナリティクス的手法ですからね。ただ今後より存在感を増すAIが普及する社会において、AIにやみくもに身を委ねるのではなく、子どものときから身の回りの社会課題を考える習慣がつくように世の中を変えていかないといけませんね。そしてAIに対するリテラシーを身に付けてもらう。絶え間なく変化する世の中の課題とは何だろうと考えてもらい、それを解決するためのテクノロジーとしてアクセンチュアはこんなことを考えていますと示せるようにならないと、われわれも生き残っていけないと思います。

保科 学世アクセンチュア デジタルコンサルティング本部
アクセンチュア・デジタル・ハブ統括
マネジング・ディレクター

データ分析(アナリティクス)に基づく在庫・補充最適化サービスやレコメンド・エンジンなど、アナリティクスソリューションの新規開発を統括。また、それらをクライアントの業務改革を実現するサービスとして提供する際の責任者として、数多くのプロジェクトに携わる。近年は、AI領域のソリューション開発に注力。理学博士。2018年秋発刊予定の『HUMAN+MACHINE AIにできる仕事、できない仕事』では、日本語版独自章の執筆を担当。

「AI人材」は社員の
再教育でまかなえる

新井一方で、現状ではベンチャーキャピタルはコスト削減だけを考えたAIのベンチャーにお金を出しすぎているように思います。社会問題が多くある中で、今後はもっと持続可能性を考えた企業にお金を出すべきです。

保科企業の投資にしても、疑問を感じるケースが多いですね。サービス導入時点での効果でROIを判断するケースをよく見かけますが、これには違和感があります。機械学習を使うサービスは、サービスインをしてからデータを学習していくことで資産価値が上がっていきます。高度なアルゴリズムが身近になってきた今、早く参入し、リアルなデータでサービスを高度化していかないと、サービスの資産価値が上がらない。むしろ、先を越された他社に追いつけなくなる。これを理解して投資を考えるべきだと思います。

新井何の課題を解決したいのか、何もやりたいことが決まっていないのに、AIをとりあえず入れましょう、ビッグデータを持ちましょう、っていうのはとてもコストパフォーマンスが悪いですよね。

保科そうなんです。AIがバズワード化している今、設定している課題が的外れなことも多い。自社の強みやコア領域に対して最新のテクノロジーを使わなくてはいけないのに、勝負どころ、投資どころを間違っている。AIを導入するには、自社のリソースや技術との相性も加味したうえで、適切なAIエンジンを選択しなくてはいけません。ですが、世の中に数多くの種類がある言語処理、音声認識、画像解析、その他さまざまなAIエンジンの中から、どれを選べばいいかを都度調べて選んでいては時間もかかりますし、第一、専門外の方が適切な選択をすることも難しい。とりあえず有名なエンジンを使っておこう、という判断がなされるのも、わからなくもありません。こういった状況を多く目にしてきたので、アクセンチュアではAIを適材適所で配置するための「AI Hubプラットフォーム」を提供しています。こういったプラットフォームを活用することで、AIエンジンに振り回されることなく本来のビジネスに集中してほしいですし、投資どころという話をしましたが、自社のコアサービスでこそ、こういったプラットフォームを活用していただきたいと考えています。

新井今までの日本の大企業の企業戦略って、幕の内弁当とかホテルのビュッフェみたいだったと思うんです。すべてのものを平均的に揃える。それをAIで代替させようとするとうまくいかない。Amazonのような企業が成長したのはAIでできることを中心に置いて、それ以外を切り捨てたからなんですよね。

保科何がAIでできるのか、何を人がやるべきなのかを把握し、AIと人が協働することを前提として業務プロセスを考え直すことが重要です。そして雇用の流動性が低い日本では、作業がAIに置き換わっていった社員を、どうスキルトランスファーするか考えなくてはいけないでしょう。

新井最近、あるメーカーの方から「AIやIoTの人材が欲しいんだけど、専門家を採用するコストがかかりすぎるので悩んでいる」と相談を受けました。私は「御社は農学や機械工学を学んだ学歴が高い人が多く素養があるんですから、2年くらい社員が勉強してAIやIoTの人材になったほうが早くないですか」とお答えしました。日本の一流企業の人材は優秀なので、リカレント教育(学び直し)のほうが手っ取り早い。あちこちの大学にこれからAI学部をつくりましょうというのは非効率でしょうね。

保科18歳人口の減少と大学の経営危機が叫ばれる今、すでにある大学や大学院を社会人のリカレント教育の場として活用したほうがいい、というのは賛成ですね。社内の人材を再教育するほうが現実的ですし、有効だと思います。また、先生のおっしゃるように、AI学部でなくても、理系を中心に素養を持った学生がすでに多く在籍しています。そういった素養を持った学生を、われわれの持つ実践の場で教育し、データサイエンティストとして育てるべく、アクセンチュアは一般社団法人サーキュラーエコノミー推進機構の理事会員として、データサイエンティストの育成にも力を入れています。こういった枠組みの中から世界をリードするデータサイエンティストや、AIエンジニアが育てられればと考えています。


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